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トップページ 研究紹介・解説 ネオニコチノイド系農薬の蜂への悪影響、米サイエンス誌が新研究を詳報(abtによる独自抄訳)

2012 年 3 月、ネオニコチノイド系農薬がハチに及ぼす深刻な影響を示す研究結果が、アメリカの学術誌『Science』(3 月 28 日オンライン版。冊子版は 4 月 20 日)に掲載された。

女王バチが生まれなくなるマルハナバチ

イギリスの研究者らが行ったマルハナバチ(bombus terrestris)を使った実験1では、群が十分に成長できず、女王蜂の発生数が低下するという結果が観察された。この実験では75群のマルハナバチを3グループに分け、1) イミダクロプリドの摂取が少ない群(100gあたり6μgおよび0.7μgのイミダクロプリドを含有する砂糖水と花粉を与える)、2) 多い群(それぞれ倍量の100gあたり12μgおよび1.4μg)、3) イミダクロプリドを摂取しない対照群を、それぞれ実験室内で2週間飼育したのち、巣を野外に移動し、自由に行動させながら6週間のモニタリングを行なった。

巣の重量増加をみると、イミダクロプリドを摂取した群は、摂取しない対照群に比べて低量摂取群で平均8%、多量摂取群で平均12%軽かった。オス、働き蜂、サナギ(蜂児)の個体数に有意な差は見られなかったが、女王蜂の発生数には大きな違いが見られた。摂取しない群では平均13匹の女王蜂が発生したのに対し、低量摂取群は2匹、多量摂取群は1.4匹に留まった。

このような結果が生じるメカニズムは分析していないが、先行研究によれば、ネオニコチノイドを供与された採餌蜂は能力が低下するという実験室テストがある。採餌能力の障害は、野外条件下ではさらに深刻な影響力を持つことが考えられるため、群の縮小と女王蜂の発生数低下を説明する理由として妥当だろう。

女王蜂だけが越冬して新しい群を作るマルハナバチの生態を考えると、微量のネオニコチノイド系農薬が生息数を左右するレベルの影響を与えている可能性が伺える。近年の研究では、ネオニコチノイド処理を施したトウモロコシからミツバチが採集する花粉に含まれる同化合物の量は最大で100gあたり88μg(今回の実験値の14倍)、農地の周辺に自生する花の場合でも最大100gあたり9μgにのぼるとされ、農作物から採餌しないハチでも曝露してしまう。140種の作物に対し120カ国で使用が認められているイミダクロプリドが、野生マルハナバチ群の繁殖に与える影響は広範かつ深刻である。

以上の結果から、この研究グループは、ネオニコチノイドの代替となる顕花作物向け農薬の開発が喫緊だと訴えている。

巣に戻れなくなるミツバチ

同じく、フランスの研究グループが、ネオニコチノイド系農薬チアメトキサムによるミツバチ(Apis mellifera)への影響について野外実験2を行なったところ、ミツバチの帰巣行動に悪影響を与えていると示唆する結果が得られ、蜂群崩壊症候群(CCD)との関連性が改めて注目されることとなった。
このグループは中毒状態を再現するため、実際に野外で摂取する致死量未満のチアメトキサム(20μlのショ糖液に1.34ng)を採餌蜂に与え、帰巣行動を観察する実験を行なった。比較のため、チアメトキサムを含まないショ糖液を与えたグループを同数の対象群とした。巣の入り口にICタグの読み取り機を設置し、背面に微小なICタグを貼りつけたハチが帰巣すると記録される仕掛けを作った。

実験1では採餌蜂による既知の場所からの帰巣、実験 2 では巣から等距離にあるランダムな複数地点からの帰巣について、それぞれ観察した。いずれの実験でも、巣に戻るハチの割合は対照群と比較して処置群のほうが際立って低く、最大で43.2%のハチが帰巣に失敗する結果となった(実験2、対照群は16.9%)4。この結果から導き出された、曝露後の帰巣行動異常による死亡率は10.2~31.6%にのぼる。この死亡率をミツバチの個体群動態モデルに適用すると、最悪のシナリオでは個体数は5,000を下回り、群を維持する最低限の個体数にまで減少する可能性がある。

この実験は、チアメトキサムによるミツバチの曝露が、致死量以下であっても採餌蜂の死亡率に影響を与え、群崩壊につながりかねないことを示唆する。さらに研究グループは、失われた採餌蜂を埋め合わせる固体群能力の弱い他のハチ類には、より深刻な影響が表われる可能性を危惧している。

欧米で始まった規制の動き

『Science』誌は2論文と併載した論評記事で、欧米の規制機関が動き始めている事実も伝える3。欧州食品安全機関(EFSA)は農薬のハチへのリスク評価に関する新しいガイドラインを検討しており、米国環境保護庁(EPA)も今秋にはこの問題に関する科学諮問委員会を招集するという。

1) Penelope R. Whitehorn, Stephanie O’Connor, Felix L. Wackers, Dave Goulson.
“Neonicotinoid Pesticide Reduces Bumble Bee Colony Growth and Queen Production”.
http://www.sciencemag.org/content/336/6079/351
2) Mickaël Henry, Maxime Béguin, Fabrice Requier, Orianne Rollin, Jean-François Odoux, Pierrick Aupinel, Jean Aptel, Sylvie Tchamitchian, Axel Decourtye. “A Common Pesticide Decreases Foraging Success and Survival in Honey Bees”.
http://www.sciencemag.org/content/336/6079/348
3) Erik Stokstad. “Field Research on Bees Raises Concern About Low-Dose Pesticides”.
http://www.sciencemag.org/content/335/6076/1555
4) 帰巣確率の最終値。同上 Supplementary Material の “Table S1” に記載。
(要約:abt リサーチアシスタント 八木晴花)