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トップページ イベントレポート エビデンスを積み重ねて、活動につなげよう! ~それぞれの現場から(2)  2016年度「ネオニコチノイド系農薬に関する企画」成果報告会

去る3月26日、abt「ネオニコチノイド系農薬に関する企画」パートナーの活動成果をシェアする報告会を開催しました。2016年度の企画はいずれも調査・研究部門。市民の身近な活動のサポートを想定して2012年に始まった公募助成ですが、ネオニコチノイド系農薬問題が研究者にとっても大きな関心事になってきたことがうかがえます。3企画の成果報告と、佐藤潤一さん(パタゴニア日本支社 環境・社会部門ディレクター)の特別講演「環境問題を広く伝えて解決につなげるキャンペーンの方法」についてレポートします。

 

ウェブセミナーのつもりが会場は超満員に
――IUCN浸透性殺虫剤タスクフォース

最初の発表は、IUCN浸透性殺虫剤タスクフォース(TFSP)の「国際会議”Post-Neonics, What Next?”の開催とライブ配信」ですが、平久美子さん(東京女子医科大学東医療センター、TFSP公衆衛生ワーキンググループ座長)が海外の学会出席のため、事務局代読によるパワポ発表となりました。

TFSP waseda 2016.6.162016年6月18日に東京の早稲田大学理工学部で開催された国際会議は、50人定員の会場にそれを超える聴衆が集まったことが報告されました(右写真)。

会議の模様はウェブでもライブ配信され、同時アクセス数も550人超。3部構成の会議は盛りだくさんの内容で、ネオニコチノイド系農薬の環境影響および人体影響に関する問題点と、危険な農薬を使わない農法の実践に関する報告が、各国の発表者から行なわれました。概要は、未発表データの非公開部分を除き、タスクフォースの日本語ページで閲覧することができます。

「ネオニコチノイド系殺虫剤に依存した今の農業は、環境影響、人体影響の観点から持続不可能である」、「できる限り使用削減を図るべき」という会議のメッセージは、参加した農家の方や、医師の方からも前向きに受け止められたようです。今後の共同研究や症例報告の共有という展開にもつながり、タスクフォースはヒトにおけるネオニコチノイド曝露評価方法の確立という次のステップに向け国際的な研究を進めています。

▼映像アーカイブ
http://www.tfsp.info/ja/resources/
▼会議プログラム(発表抄録含む)
http://www.tfsp.info/wp-content/uploads/2016/08/TokyoSymposiumAbstract0808.pdf

 

身近な水環境への流出は今後も要検証!
――松本 晃一さん、寺山 隼人さん

3次に、寺山隼人さん(東海大学医学部医学系生態構造機能学)から、「ネオニコチノイド系農薬の生物への摂取経路と水環境リスクに関する研究及び啓発~金目川水系を例にして~」の成果発表がありました。グループが調査対象にした神奈川県の金目川水系は、水田、果樹園、茶畑、ゴルフ場などが流域に散在しています。水系に沿って6地点を選び、河川水と川底の土壌、沿岸の植物、棲息する魚類から、ネオニコチノイド系化学物質とフィプロニルの合計8種について、残留を調べました。

現在までの取りまとめでは、各種の残留が見られる結果が仮に得られましたが、再現性の確認が必要なため今後も継続調査を行なうことになっています。流域の農業者からは、水田の農薬施用履歴は得られたものの、果樹や畑の施用履歴についての情報が得られないなど、苦労も多かったようです。会場との質疑応答では、国内のより農業が盛んな地域や、オランダでの表層水残留調査結果との比較、魚種の違いによる残留の度合への質問など、継続調査に向けたさまざまな期待が寄せられました。来年度以降、abtの助成からは離れることになりますが、最終的に論文化される調査結果に注目していきたいと思います。

 

培養細胞実験で神経毒性の仕組みが見えてきた
――東北大学大学院薬学研究科薬理学分野 山國研究室

42最後の発表は、山國徹さん(東北大学大学院薬学研究科薬理学分野)の「哺乳類末梢・中枢神経系におけるイミダクロプリドの神経毒性に関する薬理学的研究」です。ラットの細胞を使って、本来は体内の神経伝達物質のアセチルコリンに反応するニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)が、イミダクロプリドに反応してしまう様子を実験しました。nAChRは、末梢神経系では循環器系などの働きを保ち、中枢神経系では海馬や中脳ドパミン神経などを通じて記憶や意欲などの脳の働きを調整しています。

実験の結果、イミダクロプリドの哺乳類への毒性が低いとされる根拠となっていたアフリカツメガエルの卵母細胞の実験結果と比較すると、末梢神経系のアドレナリン合成に不可欠な酵素の遺伝子発現の亢進などについて、より低濃度での影響が観察されました。また、イミダクロプリドが脳のnAChRを介して遺伝子発現に及ぼす可能性があり、頻脈、血圧上昇、記憶障害など、イミダクロプリド中毒に見られる諸症状との関連性が示唆される結果となりました。こちらの研究も今後、論文発表が予定されています。細胞内の生化学的な反応の研究により、イミダクロプリドの人体影響の仕組みが解明されることに期待が高まりました。

 

「伝える」と「伝わる」の違いから、キャンペーンを考える
――佐藤潤一さん講演

パートナーの成果報告の後は、佐藤潤一さんによる特別講演「環境問題を広く伝えて解決につなげるキャンペーンの方法」。小規模な草の根の環境保護活動を応援してきたパタゴニアでは、社の内外から佐藤さんのような専門家の協力を得て、市民団体に効果的なキャンペーンの手法を学んでもらうワークショップも開催しているそうです。

junichi1今回お話しいただいたのは、「伝える」と「伝わる」の違い。訴えたい問題を声高に押しつけるだけでは、人は動きません。日本でも話題になった難病のALS研究の寄付金を集めた「アイスバケツチャレンジ」など、成功したキャンペーンでは必ず、普段は問題に深い関心を持っていない人たちも広く巻き込むような仕掛けが功を奏しています。どうしたら伝わるのでしょうか? 佐藤さんが強調したのは、「感情を動かす」こと。理念の一方的な押しつけにならないように、みんなが何を不便だと感じているのか、何をオモシロイと思うのか、問題点や解決策をわかりやすく可視化することが大切。そのためには、双方向的な対話で、みんなの声を聞き取るプロセスも必要になるでしょう。インパクトの大きい写真を多用した佐藤さんのプレゼンテーションそのものにも、大きなヒントが感じられました。

ネオニコチノイド系農薬のような社会問題を幅広い人びとと共有するには、まず何よりも科学的なエビデンス(証拠・裏づけ)が第一です。立ち上がり始めた科学者の方たちの警告を真摯に受け止めながら、次は一人ひとりの市民ができることを探していく――どうやったら「伝わる」のか、みんなが困っていることを共有して、社会を動かす方法を考えよう。そんなアイデアにあふれた一日になりました。