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トップページ 助成先レポート 福島原発事故後3年間のヤマトシジミ異常率調査結果を発表【琉球大学理学部海洋自然科学科生物系大瀧研究室】

2011年の福島第一原発事故の影響をヤマトシジミというチョウによって調査している琉球大学大瀧研究室の論文が、『BMC Evolutionary Biology』誌に掲載されました。論文は英語ですが、研究グループの野原千代さんに内容の解説をいただきました。

「ヤマトシジミにおける異常率の時空間的な動態:福島原発事故後3年間(2011-2013)のモニタリング調査」

2011年3月の福島原発事故による放射能汚染の生物影響についての長期間のモニタリングは、汚染地域に生息している生き物に何が起きたのかを理解するために必要である。そこで我々は、1世代の期間が約1か月であるヤマトシジミ(Zizeeria maha)を用いて、野外個体群(成虫)および飼育個体(野外採集個体の子世代)における異常率の空間的・経時的な変化を調べた。調査は、福島市、本宮市、広野町、いわき市、高萩市、水戸市、つくば市の7地点で、2011年~2013年の3年間に春と秋、計6回行われた。

その結果、汚染地域においては成虫(野外)の異常率は急速に増加し、2011年秋(5世代目)にピークに達することがわかった(この現象は低汚染地域では見られなかった)。また、飼育個体における総異常率(幼虫、前蛹、蛹期における死亡と成虫期における形態異常を含む)も、2011年秋(5世代目)または2012年春(7世代目)でピークに達した。飼育個体の異常率レベルが野外個体よりも高かったことから、野外個体群では実際にはさらに多くの死亡と異常が出現していたことを示している。そして重要なことに、これらの野外個体群および飼育個体群での異常率の上昇は、2012年秋(11世代目)、2013年春(13世代目)には正常なレベルに戻った。さらに、同様の結果が、1分当たりの捕獲頭数の変化や地面線量だけでなく、原発からの距離と成虫の異常率との間でみられる相関係数の変化においても得られた。

これらの結果は、初期の世代で生理的・遺伝的な不利益が発生し蓄積するが、それらは後に減少し正常値に戻ることを明らかにした。これは、原発事故後における生物の動態についての現在までに得られている最も包括的な記録である。さらに、これらは、野生生物における人工的な汚染の生物影響を評価する際には世代時間や適応進化を考慮に入れることが重要であることも示している。

▼「Spatiotemporal abnormality dynamics of the pale grass blue butterfly: three years of monitoring (2011–2013) after the Fukushima nuclear accident」
https://bmcecolevol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12862-015-0297-1