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トップページ イベントレポート 【レポート】8/3(土)緊急セミナー! 「ネオニコチノイド系農薬規制のフランス最新情報ほか」 ネオニコ系農薬規制を巡る世界の最新情報と日本の最新研究結果の解説および意見交換会

去る8月3日(土)、一般社団法人フードトラストプロジェクト、NPOエコツーリズム・ネットワーク・ジャパン主催、一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト共催の上記セミナーが、新宿区立環境学習情報センターで開催されました。前半はフランス在住の環境ジャーナリスト・羽生のり子さんから、フランスのオーガニック事情と政府の農薬政策に関する最新情報の講演、後半は東京女子医科大学東医療センターの平久美子さんより、「ネオニコチノイドの公衆衛生への影響 ――新生児尿からの検出が意味するもの」と題し、ネオニコチノイド系農薬が社会全般に与える影響についてお話しいただきました。

羽生のり子「フランスの農薬、オーガニック事情」

これまでフランスにおけるネオニコチノイド系農薬やグリホサートの規制に関し多くの取材と記事発表を重ねてきた羽生さんからは冒頭、フランスの現在の農薬規制全般について説明がありました。それによると、フランスでは2007年にサルコジ政権が発案した「Ecophyto(エコフィト計画)」に基づき、2020年までに農薬使用量を25%削減、2025年までに農薬使用量を半減するという数値目標があって、公共空間では2017年1月から化学的な農薬の使用を廃止、2019年1月からはアマチュア園芸家による化学的な農薬使用を禁止するといった大胆な農薬規制が次々と行なわれているそうです。

フランスは世界に先駆け2018年9月にネオニコチノイド系農薬を全面使用禁止にしたため、現在、市民の関心はグリホサートに移っており、次にグリホサートに関する政府や国会議員の動向と禁止に向けた市民運動について紹介がありました。市民運動の多様さは目を見張るものがあり、手法も様々、運動の主体も多岐にわたっていて、自主的に尿のグリホサート含有量検査をし、自主検査をした人のほとんどが国を告訴するという「グリホサート・キャンペーン」や、農薬全廃を求めて署名500万筆を目指す(7月30日現在、77万筆)「ひなげしを取り戻したい運動」(ひなげしはフランスの初夏の風物詩)、農薬被害者の訴訟情報や化学的データベースを公開し、農薬被害者の国際ネットワーク作りを目指す「ジュスティス・ペスティシッド」(農薬に関わる正義・公正)など、ネオニコチノイド系農薬とグリホサートという対象は違っても、市民運動の参考になるような事例が多数披露されました。

平久美子「ネオニコチノイドの公衆衛生への影響 ――新生児尿からの検出が意味するもの」

IUCN(国際自然保護連合)浸透性殺虫剤タスクフォース公衆衛生グループの座長であり、独協医科大学・市川剛医師らの研究グループによる新生児尿のモニタリング研究(7月1日、科学誌PLOS ONEにて発表)にも加わった平久美子さんからは、同研究成果を中心として、ネオニコチノイドの毒性や健康被害が社会にどのような影響をもたらすかについて解説がありました。

PLOS ONEに発表された研究は、2009年1月から2010年12月までに獨協医科大学病院のNICU(新生児集中治療室)に入院した、在胎週数23~34週の極低出生体重児男女57人の生後48時間以内の尿を、7種のネオニコチノイドと代謝物について分析したもので、その結果、ネオニコチノイド系殺虫剤のアセタミプリド代謝物デスメチルアセタミプリドが、出生48時間以内の14人(24.6%)の尿から検出され、生後14日目の65人の尿についても7人(11.9%)から検出されました。これは、ネオニコチノイド系殺虫剤が胎内で移行したことを裏づけており、平さんは「発達途上の脳の血管は脆弱で、薬物や毒物、病的状態の影響を受けやすく、将来の脳の障害や神経疾患をきたしやすい」と、新生児の健康被害の可能性を憂慮しています。デスメチルアセタミプリドは、果物・茶飲料によるネオニコ中毒(全身検倦怠、頭痛、胸痛、動機など)の患者尿から高濃度・高頻度で検出され、雄マウスの実験では発達期曝露によって性行動・攻撃行動の増加などが見られるという研究結果も出ています。

ネオニコチノイドはこれまでの研究から、腸粘膜、血液脳関門、腎臓、心臓など様々な臓器と関門を通過することがわかっており、今回の研究で新たに胎盤を通過することが明らかになって、もはや「ネオニコチノイドから人体組織を守るものはない」のは確実だそうです。

こうした現状において、平さんはネオニコチノイド使用規制までに次の2つの障害があると分析します。

【食品安全委員会は国民の安全を守るものではなくなっている】
• 農薬登録制度は、OECD(経済協力開発機構)で決められた動物実験のデータに基づく認証システムで、ヒトのデータは考慮しない建前になっている。
• 発達神経毒性試験に関して、無視できない技術の遅れがある。
• 同一作用機序の化合物の多種類使用を考慮していない。

【農業従事者のネオニコチノイドの毒性に関する無関心がある】
• 果物とお茶については、効き目の点で代替品が見つからない。
• 予防的に使うため、使い過ぎを防げない。
• 使い過ぎると益虫や害虫の天敵を殺してしまい、かえって収量が減る。
• 急性中毒を起こしにくいため、繰り返し曝露することによりある日突然、発症することを理解していない。

また最後に、ネオニコチノイドの公衆衛生全般への影響として、国内の衛生環境格差(農地周辺住民の曝露、地理的・経済的に有機農産物が買えない人がいる)、国家間の衛生環境格差(開発途上国での使用など)、生態系の持続可能性(生態系サービスの崩壊、農業生産減少、水産資源減少)、次世代の衛生環境(不妊不育、発達障害)を挙げ、ネオニコチノイドが単に個人の健康被害だけでなく、国家間・世代間・生態系と多岐にわたった影響を及ぼすものだとして、早急な規制の必要性を訴えました。

本イベントについては、印鑰智哉さんのFacebookでも詳細報告がお読みいただけます。
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