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トップページ 研究紹介・解説 「ネオニコ問題は決して解決していない」10年以上にわたる長期野外実験の研究成果7つを紹介

abtの「ネオニコチノイド系農薬に関する企画」助成公募選考委員を務める、金沢大学名誉教授・学術博士の山田敏郎氏は、オルタナサイトに「ネオニコ問題は決して解決していない」(1)~(7)を寄稿しています。この中で、2009年から行なってきた6回にわたるミツバチの長期野外実験の研究成果7つを紹介し、ネオニコ系農薬(フィプロニルを含む)は、ミツバチの大量死や越冬の失敗に深くかかわっており、その特性(長期残効性、高殺虫性、浸透性、神経毒性)は、農作業量の軽減の代償として、極めて深刻な地球環境への負の遺産を残すと懸念を表明しています。

実験の概要は以下のようになります。

(1)【2010年度:2010年7月18日~2010年11月21日(126日)石川県志賀町 ネオニコの蜂群への影響(CCDとの関連性)】

ネオニコ系農薬をカメムシ防除で推奨される濃度からさらに10倍(高濃度)、50倍(中濃度)、100倍(低濃度)に希釈したものを糖液と花粉ペーストの餌に混ぜ、セイヨウミツバチの成蜂数と蜂児数を4か月間計測。実験の結果、濃度にかかわらず、蜂群はすぐに縮小してついにはCCDの様相を呈した後、絶滅した。

(2)【2011年度:2011年7月9日~2012年4月2日(269日)石川県志賀町 農薬の摂取経路の蜂群への影響】

エネルギー源である糖液を介して投与した場合とたんぱく源である花粉ペーストを介して投与した場合との違いを調査。その結果、農薬入り糖液投与群と農薬入り花粉ペースト投与群は、滅亡までの一匹当たりの蜂の農薬摂取量に極めて大きな相違があり、農薬入り花粉ペースト投与群は農薬入り糖液投与群の農薬濃度に関係なく、約1/5の農薬摂取で滅亡することが明らかとなった。

(3)【2012年度:2012年6月28日~2013年7月26日(381日)石川県志賀町 ネオニコと有機リンとの蜂群への影響】

ネオニコ投与群と有機リン投与群の蜂群への影響を調べた。各農薬の濃度はカメムシ駆除濃度の1/50の濃度とした。農薬の残効性による蜂群への影響の違いを調べるために、毎回(実験間隔:ほぼ1週間)農薬入り糖液を新しく作成し、農薬の投与後の死蜂数の変化を調べた。その結果、ネオニコ投与群は各実験日間で死蜂数の減少は少なかったが、有機リン投与群の死蜂数は急激に減少。このことからネオニコは殺虫能力が維持されるが、有機リンは新しく調整した農薬の投与直後は本来の殺虫能力を呈するが、短期間でその殺虫能力が失われることが示唆された。

(4)【2013年度:2013年8月13日~2014年2月28日(199日)石川県志賀町 極低レベルでのネオニコと有機リンの蜂群への影響】

(3)の実験よりさらに低い濃度での影響を調査するため、糖液中にカメムシ駆除推奨濃度の1/500となるように各種農薬濃度を調整して、ネオニコ投与群と有機リン投与群の蜂群へ投与した。その結果、ネオニコは蜂群を高確率で崩壊させるが、有機リンはその確率が低いことがわかった。また、滅亡した蜂群に残されたハチミツ中の農薬濃度を測定したところ、ネオニコ投与群では投与濃度の約1/3~1/6に薄められて蓄えられていたが、有機リン投与群の残存ハチミツ中からは検出されなかった。ネオニコの残効性、巣箱内という環境や貯蜜期間などを考えるとネオニコの分解はほとんど起こらず、貯蜜中の農薬濃度の減少は周りの無農薬栽培からの花蜜により薄められたと推定した。また、有機リン投与群の残存ハチミツから農薬が検知されなかったのは、有機リンが貯蜜中に蓄えられなかったのではなく、残効性が短いために貯蔵中に分解したと推定した。

(5)【2014年度:2014年10月23日~2015年7月20日(271日)ハワイ/マウイ島 ダニの居ない地域での農薬の蜂群柄の影響

日本の一部の研究者から蜂群の滅亡はネオニコではなく、ダニが主原因だという説が叫ばれたのを受け、ダニがおらず寒い冬のない(越冬中の実験ミスがない)マウイ島で、(4)の実験と同じ濃度条件で長期野外実験を行なった。日本での実験では各濃度条件で1群ずつだったが、ハワイでは各条件で3群ずつ行なった。その結果、実験期間中に、ネオニコ群は全群とも滅亡した(滅亡率100%)が、有機リン投与群は無農薬群(コントロール群)と同じく1/3だけ滅亡した(滅亡率33%)。ダニがおらず、寒い冬のないマウイ島でも日本の中西部(志賀町)の長期野外実験と同様の結果を得たことから、蜂群崩壊の主原因はダニではなくネオニコであるといえる。

(6)【蜂群の見かけの寿命の推定:数学モデルの提案】

これまで測定してきた成蜂数や蜂児数のデータだけを用いて、真社会性昆虫であるミツバチのライフサイクルを考慮に入れることにより、蜂群の見かけの寿命(各時点で蜂群の中で最も寿命の長いグループの日齢)を推測する数学モデルを提案した。この数学モデルを用いれば、様々な環境要因(例えば、農薬の暴露や気候の相違など)による見かけの寿命への影響を、実際の養蜂場から得られる測定可能な成蜂数と封蓋蜂児数だけで推測できる。

(7)【農薬に暴露された蜂群の見かけの寿命のマウイ島と志賀町の比較】

中西部の日本(志賀町)と比べてみると、日本では見かけの寿命のバラツキは少なく越冬時には6~10倍近くも長くなるのに対し、マウイ島ではバラツキは大きいものの、一年を通してほぼ一定である。一方、マウイ島での見かけの寿命のバラツキを詳細に解析して、無農薬群や有機リン投与群においては蜂群の生理現象で説明できると考察している。たとえば、女王がいなくなる蜂群では見かけの寿命が長くなっている。あるいは、なんらかの理由で女王の産卵が少なくなっている場合でも寿命が長くなっている。一方、ネオニコ投与群においては、このような説明ができず、何か異常が生じていることが示唆される。

▼「ネオニコ問題は決して解決していない」①
https://www.alterna.co.jp/32697/
▼「ネオニコ問題は決して解決していない」②
https://www.alterna.co.jp/32699/
▼「ネオニコ問題は決して解決していない」③
https://www.alterna.co.jp/32702/
▼「ネオニコ問題は決して解決していない」④
https://www.alterna.co.jp/32707/
▼「ネオニコ問題は決して解決していない」⑤
https://www.alterna.co.jp/32711/
▼「ネオニコ問題は決して解決していない」⑥
https://www.alterna.co.jp/32731/
▼「ネオニコ問題は決して解決していない」➆
https://www.alterna.co.jp/32735/