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トップページ コラム 【abt徒然草】 #16「Tokyo生きもの事情」

アクト・ビヨンド・トラスト(abt)のメンバーが、日々感じたことを徒然に綴る「abt徒然草」、第16回目は、助成担当の八木です。

私事ですが、先日、神田川の上流寄りに引っ越しました。向かいの家の屋根にダイサギがとまっているのを玄関先から仰ぎ見たのは転居初日の朝です。朝日を浴びて真っ白に光る巨大な鳥の雄姿。これは幸先いいかな、と少しうれしくなりました。

コンクリート護岸の神田川にも、ハクセキレイやスッポンがいます。冬になれば渡ってくるマガモ、コガモ、オナガガモ。常駐しているカルガモは子育てもするし、なかなかにぎやかです。同じくコンクリートで風情のない善福寺川では、カワセミが川面に沿ってまっすぐに飛んでいくのを見たことがありました。田舎育ちの私が生まれて初めてカワセミを目にしたのが大都市東京とは……。

他にも、ヒグラシ(町田市)やオオミズアオ(千代田区)、タヌキとハクビシン(中野区)、アオゲラ(杉並区)、ヒメアマツバメ、ミコアイサ(多摩市)など、私が「実物を初めて見たのが東京だった」生きものは案外多いのです。高度経済成長時代と比べて、街なかの環境汚染が少しはマシになったのでしょうか。それとも、田畑が多く農薬をよく使う田舎よりも、工場も農地もない都市部のほうが環境中の有害化学物質が少ないのでしょうか。

祖母の蔵書だった中西悟堂の『野鳥記』が手元にあります。言わずと知れた「日本野鳥の会」創始者の有名な自然誌エッセイですが、ここに描かれる戦前の東京の風景はとても長閑です。なかでも印象に残ったのは、羽田の穴守に群棲するサギの姿でした。「この島から見渡した四周の岸の林の光景はどうであろう。鬱蒼とした葉の層をイルミネーションのように白く染め出すおびただしい白鷺の点、点、点――それも何千という数なので、あたかも緑と白との絣のようだ」。鳥の集団ねぐらの「糞害」を嫌う人も多い昨今ですが、悟堂さんの目はそこに美と驚きを発見します。

このような光景は、さすがにいまの東京では見られないでしょう。しかも、このサギはすべてチュウサギだと記されています。コサギとダイサギはよく見かけますが、チュウサギにはなかなか出会えません。『レッドデータブック東京』によれば、チュウサギは東京23区と北多摩での絶滅危惧II類、南多摩と西多摩でも準絶滅危惧になっていました。

来たるオリンピックを口実に、このごろ東京の再開発は勢いを増しています。ウやサギがねぐらにする海辺の林が消えたのは、前のオリンピックのころでしょうか。土地を使った金儲けばかりを優先するのでは、ますます江戸っ子も鼻白む無粋な町に成り下がってしまいます。悟堂さんの愛した武蔵野の緑も心許なくなりましたが、生きものと一緒に生きていく都市を積極的に目指す未来のほうが、せめて真っ当であるように思います。

この写真も神田川。このくらい下流になるとさすがに魚も見当たりませんが、夏の夕方にはアブラコウモリがよく飛んでいました。