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トップページ コラム 【abt徒然草】 #7「オオカミ梯子のお話」

アクト・ビヨンド・トラスト(abt)のメンバーが、日々感じたことを徒然に綴る「abt徒然草」、第7回目は、助成担当の八木です。

最後のニホンオオカミが捕獲されて以来、長い年月が経ちました。オオカミにまつわる民話や言い伝えは各地に残っており、菱川晶子『狼の民俗学 人獣交渉史の研究』(東京大学出版会)には、このような全国のオオカミ物語が調査分類されています。

この本に、オオカミに追われて木の上に逃げた人間を、オオカミが互いの背に乗って高い梯子を作り、木の枝にしがみつく人間を捕えようとする「オオカミ梯子」という一群の類話があります。一匹また一匹と梯子の隊形を積み重ねて迫ってくる光景はなかなかスリルがあって、動物が人間の知恵の裏をかく逆転の妙も面白い。よくできた作り話だなあ、と笑っていたのですが……。

ある日インターネットで、北米のアライグマが、何匹も集まって「アライグマ梯子」になり、シカのために人間が高い木組みに吊るした餌を、何とかしてくすねようとしている写真を見つけました。写真の真偽は不明ですが、ひょっとしてオオカミ梯子も、まるっきり荒唐無稽とは言い切れないのかな、と、俄然気になり始めました。

オオカミの力と賢さを畏れ、お産するメスのために獣道にお餅をお供えして無事を祈った昔の里人が出会った何らかの「真実」が、オオカミ梯子の物語を生み出したのではないかと想像します。それを再び経験することは、残念ながら、人間自身がその機会を永遠に閉ざしてしまったのですが。

写真は秩父宝登山神社のオオカミ像。ヤクルトお供えしてますね!