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トップページ 研究紹介・解説 「スリランカの乾燥地域では、尿中ネオニコチノイド濃度が高い人に腎臓の尿細管機能低下と精神神経学的愁訴が多い」 平久美子医師らの研究グループが発表

1990年代以降スリランカの乾燥地域で急増している原因不明の慢性腎臓病について、多発地域住民の尿中ネオニコチノイドおよび代謝物を調べたところ、当該疾患に特徴的な尿細管機能の異常が尿中ネオニコチノイド検出と関連していることが示唆されました。以下、2021年11月18日に査読付きオンライン学術誌『Scientific Reports』に掲載された研究の概要を紹介いたします。

Taira K, Kawakami T, Weragoda SK, Herath HMAS, Ikenaka Y, Fujioka K, Hemachandra M, Pallewatta N, Aoyama Y, Ishizuka M, Bonmatin JM, Komori M. Urinary concentrations of neonicotinoid insecticides were related to renal tubular dysfunction and neuropsychological complaints in Dry-zone of Sri Lanka. Scientific Reports.
https://doi.org/10.1038/s41598-021-01732-2

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平久美子医師らの研究グループは、この度「スリランカの乾燥地域では、尿中ネオニコチノイド濃度が高い人に腎臓の尿細管機能低下と精神神経学的愁訴が多い」ことを明らかにした。この研究結果が2021年11月18日、査読付きオンライン学術雑誌 “Scientific Reports” に公開された。

スリランカの北部および中央部の乾燥地域では、原因不明の慢性腎臓病が1990年代から急増している。一般的な糖尿病や高血圧症による慢性腎臓病と異なり、腎臓の尿細管機能の低下を特徴とする。井戸水を飲んでいる男性農民に多く、患者数が人口の10%を超える地区もあり社会問題化している。ネオニコチノイドは1990年代から使用が始まった浸透性殺虫剤で腎毒性を有する。

著者らは、住民のネオニコチノイド暴露と尿細管機能低下の関連を疑い、文部科学省科学研究費の助成を得て、2015年にスリランカの原因不明の慢性腎臓病多発地域において、92人の住民、うち慢性腎臓病患者15人、その家族15人、同じ地域に居住する健常人62人の尿を集め、腎尿細管機能の指標であるシスタチンCと7種類のネオニコチノイドおよび代謝物N-デスメチルアセタミプリドの尿中濃度を分析した。あわせてネオニコチノイド中毒でよく見られる複数症状の有無を聞き取り調査した。

全体のネオニコチノイド検出率は、N−デスメチルアセタミプリド92.4%、ジノテフラン17.4%、チアメトキサム17.4%、クロチアニジン9.8%、チアクロプリド3.3%、イミダクロプリド2.2%で、ジノテフランとチアクロプリドの二つは、現在に至るまでスリランカでは農薬登録を受けていない。

尿中シスタチンCが正常範囲の78人と比べ、尿中シスタチンCが高く尿細管機能が損なわれていると考えられる7人ではジノテフランの濃度が高かった(p=0.009)。
また尿中シスタチンCが異常に低い7人では、N-デスメチルアセタミプリド、ジノテフラン、およびチアクロプリドの濃度がそれぞれ有意に高く(p=0.013、0.049、0.035)、胸痛、腹痛、皮疹および下痢の訴えが多かった。

尿細管機能の異常が尿中ネオニコチノイド検出と関連していることから、著者らはネオニコチノイドが当該地域で尿細管機能低下のリスクとなりうると結論している。

Taira K, Kawakami T, Weragoda SK, Herath HMAS, Ikenaka Y, Fujioka K, Hemachandra M, Pallewatta N, Aoyama Y, Ishizuka M, Bonmatin JM, Komori M. Urinary concentrations of neonicotinoid insecticides were related to renal tubular dysfunction and neuropsychological complaints in Dry-zone of Sri Lanka. Scientific Reports.
https://doi.org/10.1038/s41598-021-01732-2