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トップページ コラム 【abt徒然草】 #12「コスタリカの奇跡」

アクト・ビヨンド・トラスト(abt)のメンバーが、日々感じたことを徒然に綴る「abt徒然草」、第12回目は広報アシスタントの河野美由紀です。

今年の初め頃、足立力也さんの著書『平和をつくる教育―「軍隊をすてた国」コスタリカの子どもたち』(岩波ブックレット No.575、早乙女愛氏との共著)と『平和ってなんだろう―「軍隊をすてた国」コスタリカから考える』(岩波ジュニア新書)を読んだ。環境先進国といわれるコスタリカ(再生可能エネルギーは100%に達しようとしている!)について、なぜこの国の人たちは理想的な社会に向かって邁進できるのか、その一端でも知りたいという思いでググっていたときに出会った本である。環境と平和―――見次元が違う分野ではあるが、この国のいい意味での“振り切れた感”を垣間見ることができそうな気がしたのだ。

コスタリカの平和教育は、日本の「戦争の悲惨さを伝える」といったものとは一線を画していて、民主主義、人権、環境といった社会を構成する価値観のとらえ方を小学校の低学年からじっくり学び、議論するそうだ。本のなかの少女の次の言葉には目を開かされる思いだった「(中略)環境が悪いと社会も悪くなるでしょ? だいいち、環境破壊は資源破壊でもあるから、自然の破壊が進むと少ない資源をめぐって争いが起きるじゃない。だから、(平和を考える上で=筆者付記)環境問題もちゃんと考えなきゃね」(『平和をつくる教育』より)。abtスタッフの端くれとして環境問題に関わる上で、なんと勇気づけられる言葉だろう。

平和(そして環境)のとらえかたが、私たちより一歩も二歩も先を行くこの国の人々に俄然興味が沸いた同じころ、憲法記念日も近い4月29日、『コスタリカの奇跡 ~積極的平和国家のつくり方~』の上映会を知り、参加した。

『コスタリカの奇跡』は、軍隊を持たないという究極の平和国家をどのように実現しているのか、様々な角度から描いている。特に歴史の理解は重要で、私には二人の元大統領、軍隊廃止を宣言したホセ・フィゲーレス・フェレールと、ノーベル平和賞を受賞したオスカル・アリアス・サンチェスが印象的だった。フィゲーレスは1948年の大統領選における混乱の中、武装蜂起し、内戦の結果、政府軍を退けて暫定的な統治を行なう。このかん彼は、現在の非武装憲法につながる軍隊の廃止を国民の前で宣言し、国民に大きな支持を得た。フィゲーレスは、若いころにアメリカで猛勉強し、トルストイやアメリカ独立宣言の主要な作者であるトーマス・ジェファーソンに影響され、非戦や人権への強い思いを抱いていた。アメリカから帰国後は自ら集団農場を経営するなど、その来歴もユニークだ。

アリアスは当時内戦が続いていた中米3か国を仲介し、1987年に中米和平交渉を妥結、ノーベル平和賞を受賞した。アリアスがすばらしいのは、自国や中米に干渉を続けた米国に抵抗すべく、ヨーロッパ主要国を回り、前大統領モンヘが出した「中立宣言」への支持を各国首脳から取りつけることで対抗した点だ。これにより、「世界の目」を意識した米国は中米社会に手出ししづらい状況となった。外交努力を尽くし、国際社会に訴えるというこのアリアスの手法は、軍隊を持っていようがいまいが、平和的に紛争を解決するための基本的な手段であると、この実例をもって私は初めて理解した気がする。

これ以後もコスタリカは他国との小さな紛争が起こるたび、外交や国際法に訴えるやりかたを貫いている。「泥棒が入ったら警察にいくでしょ?」という映画の中のセリフそのままを実行し続けているわけだ。一方で、コスタリカは国際社会に頼っているばかりではない。国連の環境、紛争解決、人権の枠組みに積極的に関わっている(たとえば、COP21のとりまとめ役だったクリスティアーナ・フィゲーレスは前述の大統領の娘)。

しかし本当に素晴らしいのは、こうした指導者を支持しつづけたコスタリカの国民である。その気質(映画の中では芯の強さと表現されているが)はどこから来たものなのか――私の一番初めの疑問は、まだ答えが得られていない。ただ、映画や本の理解を通じて、私の脳内はずいぶん揺さぶられ、理想とわかっていながら心のどこかで懐疑的だった価値観がはっきりイメージできるようになった。

ちょうど憲法記念日のころ、この映画がテレビで取り上げられ、ある評論家は「(軍隊を持たないことについて)コスタリカは小国ですからね、これが日本にそのまま通用するとは思えない」と一蹴したが、この国から学ぶことはたくさんあるはずだ。この方には、足立力也さんの本を読み、この映画をぜひ見ていただきたいと思う。

コスタリカの奇跡 ~積極的平和国家のつくり方~