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トップページ イベントレポート 2022年度「ネオニコチノイド系農薬に関する企画」公募助成成果報告会

2022年度に実施した8団体の公募助成企画の成果報告会を、2023年6月11日にZoomによるオンラインセミナー形式で開催しました。限られた時間での発表でしたが、1年間の取り組みで得られたさまざまな知見を参加者で共有する機会となりました。各発表のダイジェストを、当日のプレゼンテーション資料と併せて掲載いたします(以下、発表順)。

苅部治紀
ため池や自然止水域におけるネオニコチノイド系農薬汚染と絶滅危惧水生昆虫の生息状況IV  新たに暴露試験と虫体からの農薬検出の試行

一般社団法人 農民連食品分析センター(発表者:八田純人)
女性農業従事者の尿中ネオニコチノイド系農薬検出実態調査

神戸大学大学院 農学研究科 動物分子形態学分野 星研究室(発表者:星信彦)
神経回路形成期の時期特異的ネオニコチノイド曝露影響と発達神経毒性の継世代評価

辻野兼範
浜名湖流域のネオニコチノイド系農薬の流出源の特定と地下水への影響、水生昆虫とアサリのネオニコ残留濃度と分解産生物質の測定、及び浜名湖の動物プランクトン(カイアシ類)調査

特定非営利活動法人西日本アグロエコロジー協会(発表者:池上甲一)
農家と消費者の参加型調査による農薬の圃場生態系への影響比較

くまもとのタネと食を守る会(発表者:間澄子)
#デトックスやろう #カエルもわかる農薬の話

服部晃
岐阜県の給食をオーガニックにするための上映ツアー


◆苅部治紀

ため池や自然止水域におけるネオニコチノイド系農薬汚染と絶滅危惧水生昆虫の生息状況IV  新たに暴露試験と虫体からの農薬検出の試行

調査している昆虫への影響調査は今年で4年目になります。田畑に大量散布されているネオニコチノイド系農薬がため池や川などの水系を汚染し、水生昆虫にどのような影響を及ぼしているか調べました[資料p.2]。現在では、水生昆虫にはすでに壊滅的な影響が生じています。予想どおり、北海道から南西諸島まで広く拡散していました。マルコガタノゲンゴロウ、マダラナニワトンボなど、絶滅危惧種の大きな減少要因となっていることが推測されます。近接地でも、水田に囲まれた湿地では複数種の農薬が検出されマダラナニワトンボが絶滅しており、山林に囲まれた湿地には検出がなく現存しているという結果が得られました[資料p.3]。


一方で、継続的に汚染調査をすると、近年では急速に検出が減少している調査地もありました。ここ2~3年では、かつて頻繁に検出されたフィプロニルの検出例が減っています。農薬種の切り替えが起こっているのかもしれません[資料p.4]。


見た目は良い環境に見えても、ネオニコチノイドに汚染されている池では保全がうまくいきません。一度汚染された旧生息地で保全を進めるのは非常に難しいので、農地から離れたサンクチュアリを人工的に構築するという方法も試しています。そのほか、絶滅地で計測された濃度を研究室内で再現し、昆虫の行動や致死への影響を検証しています[資料p.5]。


≪質疑応答≫

会場:ネオニコの検出量が減少している地域ではネオニコの使用量、散布量は減っているのでしょうか。

苅部:おそらく出荷量に反映されているはずなので、農薬便覧で調べてみたいです。安全な農薬ではないことが周知されてきて、使用量が減っているのだと思います。

会場:ネオニコの検出が少なくなっているという報告でしたが、ほかの農薬に変わり始めているということはありませんか?

苅部:ネオニコも登場した当時は、安全で環境中で速やかに分解されると言われていました。次々に他の農薬にシフトすることでごまかされないように、他の農薬の問題にも広げていきたいと思います。



◆一般社団法人 農民連食品分析センター(発表者:八田純人)

女性農業従事者の尿中ネオニコチノイド系農薬検出実態調査

女性の農業から尿の提供を受け、ネオニコチノイド系農薬と類似物質の合計14成分の分析を行ないました。2018年頃から尿中のネオニコチノイド検出を調べていますが、消費者中心の202人の検体のうち190人(94%)から何らかの物質が検出されていました[資料p.2]。では実際に農薬散布を行なう農家さんはどうだろうかということで、今回の調査を考えました。女性としたのは、農民連女性部の協力が得やすかったことと、農村では地域によっては女性が散布の役割を担っているという理由もあります

分析の結果、検出されなかった人はゼロでした(67人、68検体)。耕作種は資料p.3のとおりです。年齢は35歳~90歳(平均年齢67歳)で、日本の農家の平均年齢と重なる範囲です。検出結果はp.5の円グラフのとおりで、もっとも多く検出されたのはジノテフランでした。アセタミプリドはあまり検出されませんが、その代謝物が6割から検出されました。ネオニコ以外の検出も増えており、スルホキサフロルやフロニカミドも3割超から出ています。スルホキサフロルの検出が多かったのは、体内での代謝が遅い物質なのだと推測しています。ネオニコの代替として、これらの類似農薬が使われていることがうかがえます。

今回、検出濃度、検出頻度の水準はいずれも一般消費者と変わりませんでした。アンケート調査では、農薬散布時の防護は全員かなりしっかりとされていることがわかりました。さらに農家さんの話を伺うと、基本的な食材のほとんどは消費者と変わらないそうです。環境からの曝露が大きく変わらないなら、食材経由の曝露によって消費者と同じ傾向の結果になるということがうかがえるものとなりました。調査に参加した農家さんはネオニコの環境影響も把握されているし、農薬散布を良いことだと思っている方はあまりいません。果樹農家さんで検出量が高い傾向がありましたが、これは散布方法にもあると思います[資料p.4]。

≪質疑応答≫

辻野コメント:有機栽培の農家さんは有機栽培の野菜を購入していないのが実態です。理由は値段が高いからということです。これが現実です。

会場:ジノテフランは水田で多く使用されています。米食と関係があるとお考えでしょうか。

八田:米は毎日食べているので、お米中の残留値は低レベルでも、結果的に曝露量は増えるのだと思います。また、以前行なったコメの残留農薬調査では、検出される農薬の6割がネオニコで、その8割はジノテフランでした。

会場:「果物」の中では、どの作物種に最も農薬が使われていたのでしょうか。

八田:リンゴやサクランボの農家さんが多かったです。どちらもネオニコ使用ありというアンケート結果でした。散布からの曝露があったのだと思います。普段、食品での残留を調べても果物は濃度が高いです。食べる回数や量は少ないので、曝露量が多くないのですが。お子さんに食べさせる場合には、その点は留意してください。

会場:「学校給食にパンではなく米食を」という動きがありますが、ネオニコがお米から検出されるということでは、ためらいがあります。

八田:水系汚染があるのだから完全にネオニコフリーでお米を作るのは難しいということはあります。有機栽培米であっても影響を受けていると思いますが、残留する量は大幅に少ないお米にはなります。ですので、最終的なゴールとしては米食を目指してもらえたら良いなと思っています。



◆神戸大学大学院 農学研究科 動物分子形態学分野 星研究室(発表者:星信彦)

神経回路形成期の時期特異的ネオニコチノイド曝露影響と発達神経毒性の継世代評価

ネオニコチノイド系農薬はニコチン性アセチルコリン受容体に結合し、神経細胞を持続的に興奮・攪乱します。クロチアニジン(CLO)の神経回路形成期(胎子・新生児期)の曝露は脳の神経発達を阻害し、行動異常につながりますが、各発達段階での影響は明らかではありませんでした。今回の研究では、1)CLO曝露が脳の発達へ最も影響する発達段階、2)妊娠・授乳期のF0世代への無毒性量曝露後3世代(子、孫、ひ孫)の神経行動学的な継世代影響、3)同じく3世代の胸腺・腸管免疫系への継世代影響を検証しました[資料p.2~5]。

実験1では、4つの時期での曝露についてそれぞれ幼年期・成年期に不安様行動や自発運動量といった行動影響をもたらすことがわかりました[資料p.6]。胎子・新生子期(全期間)の曝露と同様に、生後1~4日のCLO曝露でも神経発達への影響が成年期の海馬において継続することが明らかとなりました[資料p.7~9]。生後も海馬の神経新生・発達は継続するため、母体内で代謝・濃縮されたCLOが迅速に母乳中へ移行し、悪影響を及ぼしたことが考えられます。この実験では、生後1~4日のCLO曝露による脳の発達への影響が最も大きいことが明らかになりました[資料p.10~11]。

実験2では、F0世代の無毒性量のCLOによる影響がF1・F2・F3へ及び、世代を経ると減弱することがわかりました[資料p.12~13]。実験3では、無毒性量の曝露が胸腺の細胞構成に影響を及ぼし、免疫の暴走に関連する短鎖脂肪酸産生菌の変動を含めて、腸内細菌叢を攪乱することがわかりました。曝露を受けた個体だけではなく、経世代影響があることもわかりました[資料p.14~17]。

作用機序については未だ不明な点が多くありますが、「環境汚染と健康」の問題は次世代に先送りしてはならないし、「疑わしきは罰せず」ではすまされません。農薬とのつきあい方を真剣に考えるときが来たと思っています[資料p.18]。


◆辻野兼範

浜名湖流域のネオニコチノイド系農薬の流出源の特定と地下水への影響、水生昆虫とアサリのネオニコ残留濃度と分解産生物質の測定、及び浜名湖の動物プランクトン(カイアシ類)調査

2020年の調査で浜名湖北部(三ヶ日町)の検出が高いことがわかったため、三ヶ日町に多いミカン園との関連を調査しました。三ヶ日町内を流れる主な河川は宇利山川、日比沢川、釣橋川の3つで、それぞれの上流、中流、下流の汚染を調べました。パッシブサンプラーを1か月間設置し、平均した1日当たりの濃度を出しました[資料p.1]。大量の降雨があった後は土壌流出があり、下流で濃度が高くなります。降雨直後は、欧州の研究者の評価で急性毒性があると言われている濃度(200ng/l)がミカン園地から河川に流出していることがわかりました。なかでも高いのはイミダクロプリドとクロチアニジンでした。平時の日比沢川では、ミカン園に囲まれている中流(St2)のほうが、水田に囲まれている下流(St1)より検出値が高いです。宇利山川でも同様なので、ミカン園からの流出が強く疑われると言えるでしょう。日比沢川沿いの地下水も調べましたが、非常に高い値が出ました。地下水も汚染されている可能性があります。

河川の水生昆虫について見ると、40年ほど前に三ヶ日町で同じくコードラー法で水生昆虫の調査をした時には多くの個体を採集できましたが、今回は少数しか見当たりませんでした[資料p.1下表]。ネオニコチノイドの影響が表われている可能性が高いと思われます。

都道府県別のネオニコ出荷量を見ると、標準より出荷量の多い県にはミカン産地が多くあります[資料p.2]。三ヶ日は高価値の優良品ということで、見た目をよくするために念入りに散布しているのかもしれません。ミカン生産とネオニコチノイド使用の関係性は課題であると言えるでしょう。

近年漁獲量が減っている浜名湖への影響をどう考えるかということですが、話題になった宍道湖の例とは異なり、浜名湖においては動物性プランクトンへの影響は大きくないようです[資料p.3]。そのほか、農薬への関心や認知についてアンケートを行なったところ、野菜の生産方法への関心などの項目で男女差が見られました。[資料p.4]。

≪質疑応答≫

八田コメント:ミカンの曝露については、このような調査結果もありますのでご参考にしてください。


≪事務局注記≫

農薬への関心や認知に関するアンケートは今後さらに分析を進める予定とのことです。結果の解釈についても暫定的なものであることにご留意ください。



◆特定非営利活動法人西日本アグロエコロジー協会(発表者:池上甲一)

農家と消費者の参加型調査による農薬の圃場生態系への影響比較

初年度としては順調にデータを集められました。調査の枠組みは資料p.3のとおり、有機水田と慣行水田で採取した検体(水、土壌、稲の葉)の農薬残留の比較と、生き物調査です。農薬使用実態に関する農家の意識調査も行ないました。調査地域は滋賀県高島市と兵庫県丹波市です[資料p.4]。

残留濃度解析結果は、両地区とも水の検出割合が高く、次いで土壌となり、稲の葉からはほとんど検出されませんでした。高島市X地区の水田は琵琶湖からの逆水パイプライン灌漑のため、水路からの混入は考えにくく、もともと「生き物農業」の盛んな地域でもあってドリフトの可能性は低いと思われます。したがって、琵琶湖の汚染によるものという可能性も捨てきれず、バルブ水の調査を今年度追加しています。しかし、同地区に農薬依存の高い大規模農業の移入が近年増えていることがアンケート調査でわかったので、今後把握する必要があります。丹波市では、有機・慣行とも水からジノテフランとイミダクロプリドが高濃度で検出されました。同じため池からの水であったので、ため池の調査を今年度は計画しています。高島市ではネオニコ以外の農薬の検出も多く、移行が進んでいる可能性があります[資料p.5]。

生き物調査については、苗箱からの影響は少なく、カメムシ防除からの影響が大きいようです。高島市では、ウンカとヨコバイは有機水田にのみ高密度で生息しており、周辺の慣行水田の避難先になっているようです。丹波市もヨコバイ類は有機水田のみで確認されましたが、イネミズゾウムシやイネカメムシなどの「害虫」が有機水田には出現しなかったという興味深い現象も見られました。[資料p.6]。生物相の違いの要因には、農薬だけではなく、畦畔の植生(除草剤散布の有無など)といった圃場周辺の条件や、独自の水文化を持っている高島市、小規模農家の多い丹波市といった集落の特性もあるようです[p.7~8]。

このような諸条件も踏まえたうえで、これまでの分析結果を体系化し、継続的な調査を進めていきたいと思います。農家へのアンケート結果については、こちらをご参照ください[資料p.9]。

≪質疑応答≫

会場:参加型調査ということですが、具体的には消費者などどのように参加したのでしょうか?

池上:子どもさんに来てもらい、親御さんと一緒に生きもの調査をしています。昨年は暑さとコロナ流行のため1度しか開催できませんでした。サンプルを採取してもらうとか、耕作放棄水田で実際に米作りを体験してもらうなど、可能であれば今後は多様な形での参加を考えたいと思っています。カメムシ農薬散布前後での生き物数の変化や、慣行と有機での違いなどを感覚的に知ってもらうことを目的にしていましたが、今回は慣行と有機の差が大きくなかったので、このような前提を再考してみたいと思います。参加している子どもさんはとても喜んでいたので、口コミで参加者が増えると良いと思います。


◆くまもとのタネと食を守る会(発表者:間澄子)

#デトックスやろう #カエルもわかる農薬の話

このプロジェクトを始めて2年目になります。有機農家と消費者から成る団体ですので、農薬にはあまり知識がないところから始めました。今回は、1年目に自主的にデトックス(一定期間無農薬の食品だけで暮らしてみて、尿からの農薬検出を調べる実験)をされた方がいて、それを広げてみようと思いました[資料p.2]。10人で1週間、うち2人は1か月としました。微量農薬の長期曝露が子どもに与える影響を学ぶのが最終的な目的です。デトックスのモニターさんはこれまで意識的に有機農産物を食べてこなかった人を選びました。7日後、1か月後の尿からの検出結果(濃度の下がり方)は、同様の実験をされた他団体の結果とほぼ同じでした。報告書は、これからデトックスをやってみたい人が参考にできる手順書になることを意識して、苦労した点などを細かく記載しました。

加えて、難しい問題をわかりやすく伝えるために、カエルのパペット(操り人形)を使った短い動画8本を作りました。先ほど発表された星先生や八田先生のお話や、「みどりの食料システム戦略」で代替農薬と目されているRNA農薬の問題点などです。この動画は「カエルにわかるように説明する」という形式によって、非常にわかりやすいものになりました。スタッフも楽しくノリノリでできたし、頭ではわかっていたことを本当に自分の問題としてとらえていくきっかけにもなりました。ぜひこの動画を広めていきたいと思います[資料p.3]。

このような企画を通じて、さらに掘り下げていきたい課題も出てきました。まず、カエルを使った動画ですが、「これでもまだ難しい」という感想がありました。しかし、データに基づき、科学的根拠によって農薬の問題を語る立場は堅持したいです。今年度は、オーガニック関連のお店と連携した企画を考えています[資料p.4]。

また、デトックスでは飲料水(ネオニコを検査した結果、非検出だったエビアン)を配布したのですが、とても大変でした。水の量が膨大になってしまうので、野菜やコメを洗うのには水道水を使うしかありません。水道水にネオニコが含まれているのかどうかは、自治体の水質検査対象になっていないのでわかりません。すべての飲料水をミネラルウォーターにして生活することは難しく、活性炭での除去も十分ではないです。「ネオニコを水から摂取しない方法」という選択肢を提示できないのは問題だと思いました。そこで、今年度は井戸水と水道水のネオニコチノイドと硝酸態窒素を検査する企画を進めています。

≪質疑応答≫

星コメント:ここ数年、北は北海道、南は沖縄まで、地下水も含め飲料水を調べるとすべての飲料水中には複数の農薬が検出されます。ネオニコも全サンプルから検出されました。活性炭入りの浄水を使えば、9割方が除去されることが確認されているので、気になる方は使ってみるといいと思います。また、最近では雨水からも農薬が検出されます。日本は「飲み水はタダ」という数少ない国でしたが、このままでは飲み水も購入しなければならない状況になってしまうかもしれません。


◆服部晃

岐阜県の給食をオーガニックにするための上映ツアー

『食の安全を守る人々』を中心に、岐阜県内で上映するツアーを行ないました。この映画は、ネオニコチノイド、グリホサート、ゲノム編集の3点に絞って食の安全の問題を提起している優れた作品です。『浸透性農薬ネオニコチノイドはヒトにとって安全か?』と『静かな汚染ネオニコチノイド』は同時上映として活用しました。abtのFuture Dialogueでの星先生や平久美子先生の講演も活用しました[資料p.1]。

岐阜県内11カ所、三重県2カ所の合計13会場での開催で、参加者は約1,000人です。案内のチラシを9万枚製作して配布しました[資料p.2]。各市町村の教育委員会に後援申請をして承認されると、その市町村の小中学校にチラシを配布できます。若い世代が購読していない新聞に折り込みで入れるよりも、子育て世代への問題周知のために有効だったと思います。

問題を多くの人に知らせるという目的は達成できたと思います。直接学校にPRし、地域の公民館や図書館に掲示し、理解のあるオーガニック系の飲食店などにもチラシを置かせてもらいました[資料p.3]。映画を見た人だけではなく、チラシを見た人にも訴求できたと思っています。開催地だけではなく、その周辺の市町村からも後援を得ることができました。開催に当たっては、開催地の実行委員会が中心になるのですが、そのグループがさらに友だちを誘うなど発展して、オーガニックマルシェを開催する、種苗交換会を行なうなど、「食と農」の問題に取り組む団体ができました[資料p.4]。有機農業者が近年、爆発的に増えています。スタッフとして関わってくれた人は100人くらいになりますが、若い人を中心に自主的な活動を展開しています。

結果、白川町での月1回有機米給食の導入や新規参入有機農家の増加(全農家数の7%)とオーガニックビレッジ宣言、美濃加茂市や瑞浪市では市長が上映会に参加するなど、よい影響が出ていると思います[資料p.5]。

≪質疑応答≫

会場:後援を得られた市町村名を教えてください。

服部:上映会場となった郡上市、関市、美濃市、可児市、土岐市、岐阜市のほか瑞穂市(岐阜市会場の後援)、上映会場白川町の上映では、加えて協賛市町村として七宗町、川辺町、八百津町、御嵩町、東白川村があります。三重県伊賀市、以上14市町村の後援を得ました。


Sanda Organic Action!

プロジェクトは6つあります。ネオニコフリーの米作りは今年で3年目になり、生き物調査も行なっています[資料p.1]。生き物が好きな地域のお兄ちゃんたちが子どもたちに知識を共有することで、田んぼが育む命を体験し、親御さんたちもその良さに気づくという流れができています。チラシはおしゃれな「見せ方」も重視したところ、反対運動ではなく楽しい活動であると好意的に受け止められ、市役所などにも置いてもらっています。

講演会は全5回です[資料p.2]。第4回~5回は、「コウノトリ育むお米」という単価の高いブランド米を主導されている西村いつき先生による実践的な米作りの講習で、地域で新たに米作りを始める方が生まれる成果にもつながりました。毎回、必ず議員にも出席を呼びかけています。ほとんどの会派から出席があり、市議会の一般質問でも「オーガニック給食を求める声」として取り上げられました。初回の星先生のお話で、科学的根拠があることも理解してもらえました。

3つ目は味噌づくりで、種から育てた大豆で味噌作りをしました[資料p.3]。参加者が自主的に今年も継続しています。「さんだ地域食堂」は、募金で運営する子ども食堂です。田んぼプロジェクトの無農薬米を使用していますが、全食材をオーガニックにするのはこれからの課題です。学びの時間を設けて、オリジナルの紙芝居『めぐる命の物語』を上演しました。

この紙芝居は、地域の私立保育園での「オーガニック給食DAY」でもイベントに組み込みました[資料p.5]。自校方式給食の保育園に、直接「やりませんか」と声をかけて実現しました。紙芝居の上演のあと、用意したオーガニック給食を食べてもらいました。「この野菜もひとつひとつが命だからね」と言っておいしく食べてもらい、いつもより残食が少なかったそうです。子どもたちが毎日1食はオーガニック食品を給食で食べられることが普通になると良いと思います。

最後にロビー活動ですが、給食審議会などに出席して行政の考えを丁寧にヒアリングし、審議会で有機食材の利用について文言を盛り込んでもらうこともできました[資料p.6]。自民党の議員経由で斎藤元彦兵庫県知事とも会談でき、県予算の有機農業拡大にも3億円の予算がついています。署名活動は見送りましたが、県の方針である「循環型農業」や「環境を良くする」といった切り口を使って敵を作らないようにしながら、タイミングを見て訴えていこうと思います。

《総評》

星川淳(代表理事):全体を改めて拝見すると、13年間続けてきてここまで動いたことに胸が熱くなりましたし、皆さんのご苦労にはたいへん感銘を受けました。この動向にはプラス面とマイナス面がせめぎ合っていると思います。

プラス面を言えば、オーガニック給食化はあらゆる角度から見て、有機農業化の入り口や促進剤になっています。この勢いが広がって、子どもたちが安全な食を口にできるようになると良いと思います。政府の「緑の食料システム戦略」の法制化は各地でプラスの影響を与えているとはいえ、その中身にはRNA農薬のような懸念の大きい代替農薬も含まれています。

もうひとつマイナスの要素としては、複合的な環境汚染が進んでおり、食や農薬に限らない環境化学物質の蔓延がある現状で、ネオニコだけを取り除こうとしても限界があるでしょう。たとえば熊本の地下水からなぜネオニコが検出されるのかという疑問が浮上したわけですが、同じ熊本の水からPFAS(有機フッ素化合物)が検出されたというニュースもあります。複合的汚染は一筋縄ではいきません。

さらに、農薬を製造する多国籍企業や各国政府との闘いという側面がありますが、強大な力を持ち続ける企業の巻き返しはEUでも熾烈になっています。それでも市民の側が知恵を使ってそれぞれにできる闘いを続けることに、abtも力を貸していきたいと思っています。

宮田秀明(選考委員):今回の発表は、これまで以上に社会的な波及効果の多い成果であったことが印象として残りました。このような成果は、abtによる助成事業の長年の積み重ねが功を奏してきたものと痛感しています。しかし、辻野氏のアンケート調査では男女ともにネオニコ農薬を知っている割合が30%台にすぎないことから、ネオニコ農薬に関するさらなる知見普及活動が不可欠であると思われます。