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 【コメント1】まさのあつこ/フリーランス・ジャーナリスト[PDF]

プロフィール)
フリーランス・ジャーナリスト。著書『あなたの隣の放射能汚染ゴミ』(集英社新書)、『投票に行きたくなる国会の話』(ちくまプリマー新書)、『四大公害病』(中公新書)、『水資源開発促進法 立法と公共事業』(築地書館)など。衆議院議員の政策秘書などを経て、2022年10月から取材活動を再開。

青森県六ヶ所村での「可視化」

私のほうは、少し最近の取材の模様も併せてコメントしていきたいと思います。今日の企画は、核燃料サイクル問題を可視化しようという内容だと思いますが、青森県六ヶ所村にある日本原燃の核燃料サイクル事業をやっている基地みたいなところに行ってみると、案外可視化されているなという印象がありました。しかし政策決定の場である東京では相変わらず不可視化されている。それはどうしてだろう、どうすればいいんだろうか、というようなことを、併せてお話していきたいと思います。

スライド[p.1]でご覧いただいているカエルくんは、日本原燃の広報キャラクター「ツカッテモ・ツカエルくん」という全然私が知らなかったキャラクターです。左側下にある写真は、地元のスーパーに行ってみると資源エネ庁のパネルが何枚も何枚もずらずらとありましたので、それを写したものです。「日本原燃城下町」と言ってしまってよいのかわかりませんが、そこでは生活の場でこのようなパネル展示などの形で事業が可視化され、「日本のエネルギー政策に貢献する下北半島地域」として、地元で関わる人がそれを誇りに思えるような状況がありました。

例えば、核燃料サイクル施設につきましては、パネルを拡大してみたのがこちら[p.2]ですけれども、東京のような都市部であれば「こんなにお金かかってるのに全然終わらないじゃん」と揶揄されるような建設費も、「これだけのお金が地元に落ちているんだ」とアピールされていたりしています。

心配になるような原子力規制委員会の視察

この4月に六ヶ所村に行ったのですが、スーパーを見に行ったわけではなく、原子力規制委員会が視察に行くというので、その取材に行ったついでに地元を見てみたわけです。原子力規制委員会の視察先は、スライドに赤字で書いた3つの事業所(再処理工場、ウラン濃縮工場、低レベル放射性廃棄物埋設センター)でした。視察に来た委員は1人だけで、あとは原子力規制庁から6人ぐらいが同行していました。

再処理工場については、直近の話として3月に設工認申請書6万ページのうち3,100ページに誤りが発見されて、現在の審査が中断しています。しかし、委員会による今回の視察目的はそれではなく、1年前に高レベル廃液ガラス固化建屋の冷却機能が8時間喪失して、バルブ操作の誤りという事故原因に中央制御室が気付かなかったという問題でした[p.4]。今回、田中知委員の感想は「バルブ対策はしっかりしていることが確認できた」ということで終わっていましたが、「では、中央制御室はどうなんだ」という質問に対しては、「高レベル廃液の貯蔵をしているから、冷却できないと温度が上がっていくと認識していることはわかりました」(田中知委員)というような回答で、こんな視察で大丈夫なんだろうかと心配になるやりとりがありました。

また、直近の3,100ページの誤りについて、取材者としては人材の確保がきちんとしていたのかが心配になりますが、「実際に作業をしたスタッフと話をすることがあったのか」と聞くと、「ありません」という答えで、何かちょっと生ぬるい視察でした。

旧型のウラン濃縮機器がすでに更新時期に

ちなみにこのウラン濃縮工場について、スーパーのパネルでは施設規模を「1,050トンSWU/年」と書いてあったのですが、実際にホームページを見ると450tということになっている。せっかくパネル展示をしているのに、情報はちょっと古いものでした。再処理工場の情報も竣工予定が「2020年度上期のできるだけ早期」となっていますが、もう延長されていますので、古い情報が地元に可視化されているという滑稽な感じでした。

今回、実際に取材者が見ることができた施設は、この写真[p.5]で撮れた低レベル放射性廃棄物の埋設センター3号埋設設備だけでしたが、どんなにぐるぐると核燃料サイクルをしようがゴミはあちこちから出るわけで、低レベルの廃棄物がどんどん1号、2号、3号、4号と埋められていくことになっています。

あとは待ち時間だったので、資料を読みながら「1992年に150tで始まったウラン濃縮運転が、いったんは1,050tに増設したはずなのに、なぜ今は450tと書いてあるんでしょうか」と聞いたら、「これはもう旧型の遠心分離機なので全部停止してるんだ」ということでした。そこで、視察後のぶら下がりで、ちょっと皮肉ってみたんですね。田中知委員に「核燃料サイクルがつながらないうちに30年経ってしまって、旧型のウラン濃縮機器の更新時期になっているということを、どうお考えでしょうか」と聞くと、「所見を述べる立場ではない。日本原燃がどうしっかり対応するかを考えていくものだと思います」というような答えで、これもなんだかなと思いました。

地元の人たちにとっての雇用の場に

このスライド[p.6]をご覧になるとわかると思うんですけれども、核燃料サイクルを行なっている日本原燃は、連続して30年間、トンテンカンテンといろいろな巨大工事をしています。従業員は3,000人程度ですけれども、これは六ヶ所村の人口でいえば約3分の1です。青森県出身者が従業員の3分の2ということで、そこにプラスして、車両がいっぱい並んでいましたけれども、たくさんの二次請け・三次請け企業が仕事をしており、長期滞在型の宿泊施設も二十数ヶ所あって、本当にここが雇用の場になっているという印象で、地域での存在感は非常に大きいです。

ご存知のように、1960年代にできた国策に基づいて工業地帯を日本全国あちこちに作る計画だったのですが、その誘致に失敗したので、電事連が話を持ってきて、この基地ができている状態です。地元では、これがなかったらもう本当に立ち行かないような、雇用の場になってしまっている。

どうして「不可視化」されてしまうのか

一方で、政策決定の場である東京周辺では、まだまだ不可視化されているのはなぜかと考えた時に、一つには「法令に関するニュースは絵にならない」ということがあります。原発同様に、試験研究用原子炉も再処理事業も、どれもハード面での新規制基準審査とともに、実行する事業者の技術的能力も審査しなくてはいけません[p.7]。でも、その審査内容や、過去から続く経緯は、絵にならないのでなかなかニュースにならない。それが一つの原因じゃないでしょうか。

松久保さんも猿田さんも言及されたように、「もんじゅ」は1995年にナトリウム火災が起きて、2016年に廃炉決定されています[p.8]。もんじゅの火災が起きたわずか6年後に、実験炉「常陽」でもナトリウム火災が起きました。この常陽は、部品が外れて燃料交換機が破損・変形してしまって動いていません。外れた固定ピンも未回収のままですが、つい先日、原子力規制委員会が設置変更許可申請を許可して「動かしていいよ」ということになりました。はたして原子力規制委員会に、こういった事業者の審査をする能力があるのかどうか。これは重要な観点だと思うのですが、政治家・記者がこういったことを追及し続けることができるかというと、絵になりにくく、やりにくい。

同様に政策予算についても、猿田さんも言っていたように、日本は多分アメリカと歩調を合わせているのだと思いますが、高速炉は「次世代革新炉」であるとして、これからやっていきますよと言っています[p.9]。温暖化対策にもまったく間に合わない形ですが(基本設計だけで2030年超、2050年でも試験研究用予定)、これにGX(グリーントランスフォーメーション)だと言って予算をつけているわけです。今年も「高速炉実証炉開発事業」76億円を、「新規」で予算請求しています。

諦めずに「可視化」するためにできること

では今後、こういった地味な問題をどう可視化していくかということですが、松久保さんが今日説明してくださいましたけれども、資源エネルギー庁が宣伝している嘘に反論していく必要があるだろうなと一つには思っています。諦める必要はないと思っています[p.10]。

今回、国会議事録で「核燃料サイクル」がどれぐらい議論になってるんだろうかと調べたら、頑張って2桁(2023年=23件)になっています[p.11]。これを3桁にしていくとか。あとGoogle検索で新聞記事を見てみると、それなりに件数は上がっていますし、連載を始めた新聞などもあります。ですから、これからも諦めずに、例えば松久保さんや猿田さんが言ってらっしゃるようなことを報じ続けていくことが、せめて私にできることかなと思っています。

以上です。ありがとうございました。

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