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トップページ イベントレポート 【Future Dialogue】 第8回 こんなに問題山積なのに、どうして政治に反映されないの? ~不可視化される核燃料サイクル問題~
※当日の映像アーカイブはこちら。切り抜き動画も公開しています。

【開会あいさつ】
【講演1】松久保肇/NPO 法人原子力資料情報室 事務局長
【講演2】猿田佐世/新外交イニシアティブ(ND)代表・弁護士(日本・米NY州)
【コメント1】まさのあつこ/フリーランス・ジャーナリスト
【コメント2】井田徹治/共同通信社編集委員
【ディスカッション+質疑応答】桃井貴子/認定NPO法人気候ネットワーク・東京事務所長
【質疑応答】
【最後に】「私たち市民にできること」


2023年9月15日に開催したFuture Dialogue第8回では長年にわたる反対運動がありながら、日本政府が頑なに推進を掲げる核燃料サイクル政策。技術的な問題点や膨大なコスト、プルトニウムを大量保有することによるリスクなど、専門家やNGO/NPOからはさまざまな問題点が指摘されています。しかし、こうした問題がマスメディアで大きく取り上げられることも、政治の舞台で目立った論点になることもほとんどありません。不可視化されている核燃料サイクル政策について、どう理解を深めればいいのか、なぜメディアや政治に重要な話題として扱われないかをゲストの皆さんと考えました。

 【開会あいさつ】星川淳/一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト代表理事

今日のテーマは、ある意味で原子力ムラにとってジャニーズ問題か旧統一教会問題に近いのではないかと思っいます。つまりきわめて不都合で、論理的に破綻して経済的合理性もないことが自分たち自身もとっくにわかっているのに、それがばれると砂上の楼閣が崩れてしまうために必死に隠し続けてきたし、メディアもそこに加担してきたという構図がそっくりなんですね。

日本の社会問題はほとんど同じ構図ですけれども、特にこの原子力という問題は、注ぎ込むお金の規模や、福島で見たような万が一の大事故が起きた際の被害の規模が桁違いなので、やはり黙っているわけにはいかないだろうと思います。そこで本日は、黙らないNGOとジャーナリストの方々をゲストに迎えて、日本の原発政策の核心部分を成すにもかかわらずまったく成り立っていない核燃料サイクル計画の問題点がなぜ封印されているのかを掘り下げていただこうと思います。

僕自身もチェルノブイリ――最近はウクライナ語でチョルノービリと言いますが――あの原発事故以来「脱原発」をライフワークの一つと捉えてきました。知れば知るほど、あらゆる角度から見て原子力利用に本質的メリットは何一つありません。

唯一の戦争被爆国である日本で、その原子力利用が強引に推し進められる理由は、結局のところ核武装という選択肢を持ち続けたいという政治的意思・意図が働いているからだとしか思えません。それは今日の主題ではありませんけれども、複雑怪奇なこの問題を理解する一つの補助線として頭に置いてみてください。

 【講演1】松久保肇/NPO 法人原子力資料情報室 事務局長
「核燃料サイクルを考える手がかり」[PDF]

プロフィール)
1979年、兵庫県生まれ。2003年国際基督教大学卒、2016年法政大学大学院公共政策研究科修士課程修了。金融機関勤務をへて2012年より原子力資料情報室スタッフ。共著に『検証 福島第一原発事故』(七つ森書館)、『原発災害・避難年表』(すいれん舎)など

核燃料サイクルは、原子力問題の「首根っこ」

本企画への登壇をabtから相談された時に、「マニアックなテーマ」と言われたのですが、まさにその通りで、原子力というだけで難しい話です。そのうえ核燃料サイクルの話となると、燃料を作ったり、ゴミを処理したりする工程の話になってくるので、さらに難しい。とっつきにくい話だろうな、と思っています。ただ、ここがやはり原子力問題の「首根っこ」になりますので、ここを押さえておくと問題の基本が理解できます。一番の肝になるところですので、ぜひ今日は、私以外の登壇者のお話も含めて聞いていただきたいと思います。

さて、「核燃料サイクルを考える手がかり」というテーマですが、20分で核燃料サイクルについてすべて話すのは難しいので、「このへんが問題の手がかりになってくるだろう」と私が思っているところを、かいつまんで説明します。まず「核燃料サイクルとはいったい何か」から始めたいと思います。核燃料サイクルというのは、原子力発電所(原発)の燃料を作り出して、ゴミとして最終的に処分するまでの流れのことを言います。サイクルという言葉の通り、ぐるぐると回るイメージです。どうしてこうなっているのかをご説明します。

使用済み核燃料をそのまま処分する「ワンススルーサイクル」

核燃料サイクルには、一般的に「ワンススルーサイクル」「プルサーマル」「高速増殖炉サイクル」の3つがあるとされています。それぞれ一つずつ説明します[p.2]。

原発の燃料はウランですが、まずはウラン鉱山からウラン鉱石を採掘してくるところから始まります。ここから燃料に加工します。燃料に加工する際に、核分裂しやすいウラン(ウラン235)と核分裂しにくいウラン(ウラン238)があるんですね。核分裂しにくいウランのほうが、核分裂しやすいウランよりもずっと多い。天然ウラン中の含有量では、核分裂しやすいウランが0.7%ぐらい。残りは核分裂しにくいウランになっています。これだと、普通の原発では燃料として使えません。そのため、ウラン濃縮工場というところで、核分裂しやすいウランを増やしていく工程があります。

だいたい、日本だと3~5%ぐらいに濃縮します。ちなみに20%以上になると核兵器に転用できるぐらいになります。使う技術は遠心分離とかガス拡散と言われているものですが、基本的には遠心分離でやっていると思ってください。遠心分離機でぐるぐる回していくと、重いものと軽いものに分かれていくので、その技術を使って核分裂しやすいウランと核分裂しにくいウランを分けて、核分裂しやすいウランを増やしていきます。そうすると、劣化ウランと濃縮ウランが出てきます。これを燃料に加工して原発で使います。

ワンススルーサイクルの場合は、使用済み燃料はゴミとしてそのまま処分します。世界中にある原発の数を発見されているウラン鉱石の量で割ると、どのくらいウラン燃料が使えるかが計算できますが、いまのところ約85年とか90年くらいと言われています。90年ぐらいしたら、いずれ枯渇していくわけですね。

分離したプルトニウムを利用する「プルサーマル」

もう一つ、プルサーマルというサイクルがあります。これは出てきた使用済み燃料を処分するのではなく、再処理工場に持っていきます。原発の中でウラン燃料を使っていると核分裂などを起こして、核分裂生成物と、ウランとプルトニウムができます。このウランとプルトニウムが燃料として使えるということで再処理工場に持っていって分けて取り出して、出てきたプルトニウムとウランをもう一度燃料として使います。MOX燃料のMOXはMixed Oxide(混合酸化物)の略ですけれども、MOX燃料加工工場に持っていってプルトニウムとウランが混ざった燃料を作り、また原発で使うということをやっています。出てきた核分裂生成物は、ガラス固化体という形でゴミとして地層処分する計画になっています。

プルトニウムも核兵器に転用できる物質です。IAEA(国際原子力機関)が説明している数字だと、プルトニウム8㎏で核爆発装置1発分になります。あとでご説明しますが、日本では六ヶ所再処理工場というのを作っています。ここでは年間800tの使用済み燃料を再処理して、約8tのプルトニウムを取り出すことになっています。そうすると、およそ年間1,000発分ぐらいの核爆発装置相当のプルトニウムが取り出されるということになります。これがプルサーマルサイクルです。これだと利用可能年数は100年ほどになります。

プルトニウムが増える「高速増殖炉サイクル」

あと一つが、高速増殖炉サイクルです。出てきたプルトニウムを同じようにMOX燃料加工工場に持っていくのですが、そのあとで高速増殖炉へ持っていきます。細かい技術的な話はあるのですが、この燃料を高速増殖炉で使うとプルトニウムが増えるんですね。それを再処理工場に持っていき、プルトニウムを取り出します。そうすると高速増殖炉で燃料が増えていることになるので、ずっとぐるぐる使い続けることができて、約2,550年は使えるだろうと計算されています。現在の考え方でいうと、事情上無限に使えることになるわけです。ですから、「夢の高速増殖炉」と呼ばれていたこともあります。ここで出てくるプルトニウムが、また非常に核兵器に転用しやすい。ですから、ウラン濃縮工場と再処理工場、あと高速増殖炉は、非常に核兵器製造に転用しやすい施設ということで世界的にもウォッチされている施設でもあります。

なぜ、「核燃料サイクル」が考えられたのか

では、なぜ世界中でこうした核燃料サイクルが考えられたかというと、まずそもそもウランの量が少ないと想定されていたわけです。原発の燃料となるウランが少ないうえに、将来的に原発がどんどん増えていくと予測されていました。例えば、1977年時点の原発導入予測ですけれども、最大で2020年に5,700GWeというものでした。1GWeは100万kWですので、100万kW級原発でいくと5,700基ぐらいの原発が世界中に存在することになるだろうと予測されていました。予測最小でも約1,600GWeです。

これでは燃料が将来的に枯渇すると思われていたので、世界中で核燃料サイクルをどんどん進めていかなくてはまずいね、という話になったんです。ところが、実際にはどうなっているかを見てみると、2020年時点で392GWe、大体400基ぐらいです[p.3]。当初予測されていた最小の数と比べても、4分の1以下です。でも、原子力開発が始まった1940、1950年代には将来枯渇すると予測されていたので、世界中で核燃料サイクル、特に高速増殖炉の開発が本格的に行なわれました。

日本が原子力委員会を設立したのは1956年です。原子力委員会というのは日本の原子力の司令塔です。その当時、例えばアメリカ、イギリス、ロシアなどでは高速増殖炉を作るか、作る計画をしていた段階でした。ですから、「バスに乗り遅れるな」という感じで、日本も高速増殖炉を将来の炉型として開発していこうとしました。ところが、日本が乗り出していって、世界中も乗り出したのですが、だんだん下火になっていくわけです[p.4]。

世界中で減る研究開発費、しがみつく日本

このグラフ[p.5]は、OECD諸国の原子力関連研究開発費で、折れ線がOECD諸国の核燃料サイクル研究開発費と増殖炉研究開発費、棒グラフが日本の核燃料サイクル研究開発費と増殖炉研究開発費をそれぞれ積み上げでグラフにしています。見ていただくと、1980年代以降、世界中で急激に研究開発費が減っています。

なぜこんなことになったかというと、一つは1974年にインドが行なった核実験です。アメリカとカナダが提供した民生用の原子力研究開発用施設で製造した核分裂性物質で核兵器を作ったのです[p.10]。それで、「これやばいんじゃないの、核兵器に転用できるんじゃないの」ということが確認されてしまうわけです。それ以降、先ほど申し上げた核燃料サイクルのプルトニウムを取り出す施設とかウラン濃縮施設といったものに関して、核兵器に転用できてしまうので厳しくしましょう、ということを特にアメリカなんかがやりました。

研究開発費が減っていったもう一つの理由は、増殖炉が思っていた以上に難しい技術だったということです。増殖のために使うのはナトリウムですが、皆さんも化学の実験でやったことがあるかと思いますが、ナトリウムを水に浸けると非常に激しく反応します。それで、よくナトリウム漏れ事故やナトリウム火災事故などが起きています。技術的に難しく、そのうえ原発の数も予測ほど増えなかったので、ウランもしばらく枯渇しないことが見えてきた。その結果として、世界中で高速増殖炉や核燃料サイクルに対する熱が下がってきます。

ところが、折れ線グラフではなく棒グラフを見ていただくと、日本では研究開発費の金額が全然変わりません。ずっと同じような金額が出ていますね。例えば1990年代半ばになると、OECD諸国の中でも日本しか増殖炉の研究開発費を出してないので、日本だけが支えているみたいな世界になってくるわけです。核燃料サイクルに関しても同じように、大半を日本が出している状態が続きます。

日本だけが高速増殖炉と核燃料サイクルにしがみつく状況が続く中で作られてきたのが、六ヶ所核燃料サイクル施設です[p.6]。もう一つ、「もんじゅ」という高速増殖炉もあったのですが、これは廃炉になりました。六ヶ所再処理工場というのは今、青森県六ヶ所村で作っていますが、総事業費が17.1兆円。1993年から作り始め、延期を重ねて30年経って今も竣工していない施設です。今のところ2024年度上期竣工予定と出していますが、これもかなり怪しいと思います。ここは先ほど申し上げた通り、年間800tもの使用済み燃料を処理して、7~8tのプルトニウムを分離する工場です。六ヶ所ウラン濃縮工場もここにありますが、こちらの工場でもトラブルがよく起きています。

核爆発装置5,600発分以上のプルトニウムを保有する日本

日本では、プルトニウムをどんどん増やしてきてしまいました。再処理を海外に委託したり、国内の研究開発で再処理を行なったりしたために増えてきました[p.7]。大体国内に9tくらいで、国外に残り36tくらいある状況です。2020年度末時点で日本は国内外に45.1tのプルトニウムを保有しています。8㎏で核爆発装置1発分という換算でいくと、約5,600発分の核爆発装置に相当するプルトニウムが日本の国内外にあるということです。プルトニウムをたくさん持っているので、「こんなに持っているなんておかしいじゃないか」と世界中で言われてきて、2018年に日本はプルトニウムを減らしていきますという国際公約を出しました。ただ、それ以降もあまり減っていない状況です。

プルトニウムが積み上がっていく中で、使い道がないプルトニウムをこんなにため込んでどうするんだ、ということになってきます。増殖炉でのプルトニウム使用もなかなか難しいとなったために、政府は核燃料サイクルの意義を再定義しなければいけなくなりました。

再定義された核燃料サイクルの意義と問題点

再定義された核燃料サイクルの意義で一番大きいのは「廃棄物の減容化・有害度の低減」ということになっています[p.8]。軽水炉再処理、つまり六ヶ所再処理工場で使用済燃料を再処理すると、「高レベル放射性廃棄物の体積を約4分の1に減らす」ことができ、「放射能の有害度を減らせる」というのが売りになったんです。

あともう一つ、高速増殖炉サイクルなどを実現すれば、「高レベル放射性廃棄物中に長期に残留する放射能量をさらに少なくできる」というのがあります。例えば放射能の有害度が天然ウラン並みに下がるまでの期間が約10万年だったものを約300年に減らせます、と言うんですね。非常にメリットがあるように見えます。ですから日本政府は17兆円を使ってでも核燃料サイクルを続けますよ、ということです。

でも、この表[p.8]にはいろいろな問題があります。まずそもそも高速炉がありません。作る必要性があるかどうかもわからない。高速炉サイクルをやるためには、六ヶ所再処理工場では高速炉の使用済み燃料の再処理はできないので、さらに17兆円くらい使って新しい再処理工場をどこかに作らなくてはいけません。そこまでする価値があるのかどうか。

そこまでして、メリットはどこにあるのか?

軽水炉も問題です。軽水炉再処理で放射性廃棄物の体積が4分の1に減容化できると言っているのですが、それでメリットを享受するのは原発なのです。使用済み燃料プールから使用済み燃料を取り出して再処理できれば、使用済み燃料プールを減らせます。空いたところにまた燃料を入れられるというのがメリットです。でも、それは電力会社にとってはメリットかもしれませんけれども、国民にとってメリットになるのかは別の問題ですよね。今、使用済み燃料プールが大体8割ぐらい埋まっている状態なので、電力会社にとってはこれが結構重要な課題になっています。

この表では、ガラス固化体と使用済み燃料で比較を行なっているのも問題です。ここに欠けているものがあって、それがMOX燃料です。使用済み燃料を再処理して出てきた核分裂生成物だけを固めたものがガラス固化体です。その他に出てくるのがウランとプルトニウムですが、ここで比較する時に、ウランとプルトニウムがなかったことになっています。でも、これも最終的にはごみになるので、比較しなければいけません。特に問題が出てくるのは、使用済みのMOX燃料です。これもまた六ヶ所再処理工場では、放射線量が高すぎて再処理ができないという問題があります。

もし仮に、六ヶ所再処理工場とは別に再処理工場を作って再処理を行なったとしても、そのままではこの燃料は普通の原発で使えません。なぜなら、プルトニウムが劣化しているからです。そこで今言われているのは、他の原発から出てきた普通の使用済み燃料を再処理して出てくるプルトニウムと、MOX燃料を再処理して出てくるプルトニウムを混ぜて、ブレンドして燃料にして使えばいいじゃないかという話です。これには非常にコストがかかります。

それだけやったとしても、MOX燃料は非常に価格が高い。原発のメリットは、建設費は高いけれど燃料が安いことです。ところが、MOX燃料は高いんですね。グラフ[p.9]を見ていただいたらわかるとおり、国産のMOX燃料だと、普通のウラン燃料の20~50倍ぐらいのコストになります。つまり原発のメリットがなくなってしまうのです。

日本の原子力と核兵器のからみ合い

もう一つ問題なのは、「原子力と核兵器のからみ合い」です。先ほど申し上げた通り、核燃料サイクル施設は兵器転用できます。例えばアメリカのバイデンさんが副大統領だった時に、「日本が明日にも核武装したらどうなるか、日本は実質的に一夜で核武装する能力を持っている」と言っています。また、ケリーさんが国務長官だった時にも、「日本がアメリカの核の傘に不安になれば、自国の核兵器を持ちたくなるかもしれない」と言っています[p.11]。

日本でも、佐藤行雄さんという元国連大使が、「日本の核武装の可能性についての外国の懸念は払拭しきれるものではない。アメリカが日本に核の傘を提供する大きな動機が日本の核武装を防ぐことにある」と言っています。また、森本敏元防衛大臣も、「日本はそういう手段を考える一定のレベルの原発を維持しているということが、周りの国から見ると、いつ、そういうことが起こるかわからないというふうに思わせていると、これは国にとって重要な抑止」と発言しています。

ここで問題になるのは、アメリカの核戦略に対して日本がどういう牽制をかけられるか、という話ですね。アメリカはここ数年、核兵器の先制不使用をやろうとしていました[p.12]。これは何かというと、アメリカの核兵器は相手国が核兵器で攻撃しない限り使いませんよ、という宣言政策なんですね。つまり、「アメリカはどんな状態であろうと先制使用する」という状態の否定ですから、非常に核の緊張を緩和する政策になるわけです。

ところが日本政府は、核などの大量破壊兵器を含む多大な軍事力が存在している中で核の先制不使用の考え方に依存しては我が国の安全は担保できない、と言うわけですね。大量破壊兵器に含まれるのは核だけではありません。生物化学兵器や通常兵器も含まれます。つまり、それらが使われるかもしれない状況になったら核兵器で攻撃してほしい、みたいなことを日本はここで言っているわけです。

核開発能力を持ち続けることの意味

日本は唯一の戦争被爆国で核兵器廃絶をリードしている、というイメージを持っているかもしれませんが、実際にはアメリカは「核の傘で守るから日本は核武装しないでね」と言っているわけです[p.13]。そして日本は、核開発能力があった方が交渉上有利だから、本当に核兵器を持つかどうかはまた別の問題として核開発能力は維持しておこう、となってるわけです。その様子を見ている北東アジアの他の核兵器保有国は「日本も核開発能力をもっているし、うちが別に核兵器を減らす必要なんてどこにもないよね」みたいな状態になってしまっています。

2020年にアメリカのエネルギー省が出したレポートが面白いので参照します[p.14]。ポイントは、原子力技術と原子力産業の維持によって核兵器の開発能力が維持できるんだということです。ここには引用しませんでしたが、核兵器開発能力が安く済むというふうにも書いています。つまり原子力産業を維持しておくことが国家安全保障に本質的に結びつくことを、エネルギー省が書いているのです。

原子力情報資料室では、「一緒に考えよう 日本の核燃料サイクル」という特設サイトをアクト・ビヨンド・トラストの助成をいただいて作っています。もう一つ、「プルトニウムの分離を禁止する」という、核分裂性物質に関する国際パネル(IPFM)の調査レポートを翻訳したものを掲載していますので、ぜひ一度アクセスしてみてください。

以上になります。ご清聴ありがとうございました。

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