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 【コメント2】井田徹治/共同通信社編集委員[PDF]

プロフィール)
1959年、東京生まれ。1983年東京大学文学部卒業、共同通信社に入社。2001〜2004年、ワシントン支局特派員(科学担当)。環境と開発、エネルギーなどの問題を長く取材しており、政府間の国際会議取材でも豊富な経験を持つ。現在、共同通信社編集委員(環境・エネルギー・開発問題担当)。著書に『ウナギ 地球環境を語る魚』(岩波新書)、『生物多様性とは何か』(岩波新書)、『次なるパンデミックを回避せよ』(岩波科学ライブラリー)など。

おかしなエネルギー政策はどう決まるのか

私は、1983年の福島支局が記者の皮切りでした。原子力ムラとの付き合いが40年という人間であります。皆さんがおっしゃっているように、日本のエネルギー政策というのは変なことばかりなんですよね。

もうどう考えても行き詰まっている核燃料サイクル政策が止まらないし、猿田さんがおっしゃったように、経済原則が成り立つ国では原子力産業は成り立たないと思っているのですが、いまだに日本では大きな投資がなされて、大きな目標が掲げられています。このおかしなエネルギー政策がどうやって決まるのかを、今後の議論の一端としてご紹介できればと思います。

市民や科学者のインプットがなく、審議会も形だけ

スライド[p.2]にあるのは共同通信の記事の見出しで、「30年度 原子力20~22%、再エネ36~38%」という2021年のエネルギー基本計画ですが、これは総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会で議論して決めたことに“建前では”なっています。7月21日の報道によると、再エネ36~38%とか原発20~22%で現状維持だとかいう基本計画の素案が、突然この基本政策分科会に出てきます[p.3]。

それからほんの半月足らずの8月4日には、微修正はあるもののほとんど変わらない修正案が、基本政策分科会で了承されてしまう。この場で、もう役所は10月までに閣議決定すると言っています。その間にパブリック・コメント(パブコメ)などはありましたが、日本のパブコメ制度はご存知のように言い訳だけに終わっているものなので、何も変わらずに10月22日に基本計画が閣議決定されて、これが今の日本の電力比率に関する金科玉条となり、「これでやるんだ」ということになっていると。

7月21日から3ヶ月間、大筋はほとんど変わっていないんですよね。これ[p.3]は7月21日に資源エネルギー庁が示した素案ですけども、ここに36~38%といったその後の国の計画になるものが出てくる。これは役所が出してくるんですね。国会での議論も、市民や科学者のインプットもほとんどなくて、こういう形式だけの審議会を経て日本のエネルギー政策が決まるという姿でありました。

内容もひどいが、決め方もひどい

スライド[p.5]の右側にあるのが基本政策分科会の委員名簿です。見ていただくと消費者団体の人が1人入ってる程度で、私が御用学者と言っているような人たちばかり。環境系の研究者は唯一、高村ゆかりさんしかいません。他は、ほとんど日本電鐵工業の代表取締役とか、三井住友銀行の取締役専務執行委員とか、IHIの顧問とかが委員を務めています。これは経産省が指名する委員なので、そうなるのは当たり前なのです。審議会というのは意見を順番に述べるだけで、お話したように役所の文書が突然出てきて、国会の関与もなく舞台裏で既得権益の調整が行なわれたうえで決まる。

気候危機の問題とか、原発はもう経済的に立ち行かなくなっているとか、石炭とか火力発電をどう減らしていくかといった、英語では「Transformative change」と呼ばれる根本的な政策変更が必要な中でこんなことをやっているので、いつまでたっても成り行きのエネルギー政策が続いている。それが日本のエネルギー政策の決め方です。内容もひどいのですが、決め方もひどいということです。

GX実行会議に突然出てきた「指示」

僕らは、こういう決め方じゃなくて、もっと科学に立脚して市民の意見が反映されるエネルギー政策にしなさいということを言ってきたのですけども、最近の情勢からすると、これはまだよかったと言えます。GX(グリーントランスフォーメーション)の基本戦略がまとまって、安倍政権までは原発を「可能な限り低減する」方針だったのが、岸田政権になった途端に温暖化対策として原発を最大限活用しましょうという方針が決まりました[p.6]。

これは、形式的な審議会の議論すら経たものではなかったんですね。GX実行会議で――これもきわめてメンバーシップの限られた、経産省の影響力が非常に大きい会議ですが――7月27日に突然、岸田首相が原発再稼働について「次回の会議で政治の決断が求められる項目を明確に示してもらいたい」と指示したということです。皆さんご存知のように、岸田首相が自分で考えてこういうことを言う国ではないので、裏で誰か言わせてる人がいる。

突然そういうことを言い出して僕らは驚いたんですけども、1ヶ月後の第2回会議では、もうほとんどさしたる議論もなく「原発新増設へ方針転換」となった。猿田さんが、次世代型といっても全然次世代でもなんでもないということを先ほど指摘されていましたが、その次世代型をやりますとか再稼働を一生懸命やりますとか、原発の運転期間を60年超に、というようなことも言い始めて、大きな政策変更がさしたる議論もなく決まってしまった。それが日本のエネルギー政策です。

政策決定の「非民主度」が高まった

そして4ヶ月後には、それが国の政策として決まってしまいました。形式的な審議会での議論すらなく、市民のインプットの機会もないし、科学者のインプットもない形で決まってしまった。日本のエネルギー政策はきわめて非民主的な形でいつも決まっているのですけども、その非民主度がさらに高まったと言えると思います。

時間がないので詳しいお話はしませんが、そうやって決めるものなので、内容も当然ながら既得権益に配慮して利害調整だけをするようなエネルギー政策になってしまう。原発の利用が推進されて、再エネは抑圧されると。石炭火力発電はアメリカでもどんどん減っているのですが、その石炭火力発電を温存するためにアンモニア利用という、これまた全然経済合理性もなければ科学的な合理性もないものが決まってくる[p.7]。

「まったく変わらない原子力政策」と書きましたけども、これだけ大きな問題がある中で、相変わらず原子力依存は変わりません。原子力を真面目にやっている人ですら「30年度に20~22%」は達成できないと言ってるのに変わらない。

嘘が積み重なって、回らなくなっている

「核燃サイクルの呪縛」と書きましたけども、核燃料サイクルというのは、原子力をやる以上どうしようもなくついてくる。原発を作る時に、電力会社は地元に「可能な限り早く使用済み核燃料を持ち出します」というお約束をしたうえで原発を作らせてもらいます。六ヶ所に持っていって再処理する話だったのですが、六ヶ所には最終処分場にはしないというお約束をしているので、再処理が進まなくて非常に困っています。

それで最近、山口県上関町での中間貯蔵施設調査が大きな話題になっているのです。関西電力は早めに中間貯蔵施設を見つけるというお約束をしてきた。どんどん嘘が積み重なっていって、もう回らなくなっているのに、それが変わらない。なぜ、そういうことになってるのかは、ここ[p.8]に書いた通りですけども、民主的な政策決定も科学的な政策決定も不在なのです。

メディア報道も含めた構造的な問題

最初のあいさつで、星川さんがメディア報道にも問題があるとお話しされていましたけども、経産省記者クラブというのがあって、そこに依存している人たちが記事を書くので、なかなか本当の情報が社会に伝わっていかない。日本のエネルギー政策がこれほど駄目になってしまうのには、きわめて構造的な理由がある。それが私のこの後の議論につなげるうえでのお話です。

それから、このスライドの最後[p.9]に、経産省から記者や一般公衆に非常にバイアスのかかった情報提供がなされている例としてG7宣言の誤訳問題を用意してきたのですが、時間がなくなってしまうのでこれは読んでいただければわかると思います。40年間、環境エネルギー報道に関わってきた者としては、今のメディア報道には非常に大きな問題があると思うところです。

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