公正で持続可能な社会づくりをエンパワーする

empowering actions for just and sustainable society

トップページ イベントレポート 【レポート】4/14(日) 公開セミナー「ネオニコ大会議 食べものと生きものを守ろう!」~オーガニック給食の事例からネオニコチノイド系農薬を考える~

去る4月14日(日)、abtは標題のセミナーを北沢タウンホール(東京都世田谷区)で開催しました。第1部は、2018年度「ネオニコチノイド系農薬に関する企画」公募助成成果報告会、第2部は2つの助成先担当者とゲスト1人によるパネルディスカッション形式で、オーガニック給食や子どもの食の安全について議論しました。

 

第1部:2018年度「ネオニコチノイド系農薬に関する企画」公募助成成果報告会

第1部では、「調査・研究」分野6件の成果報告が行なわれ、身近な家庭用品の消費者動向調査から、ネオニコチノイド系農薬の人体影響に関する最新の研究まで、幅広い内容の発表となりました。

◆一般社団法人農民連食品分析センター
「市販国産鶏卵のネオニコチノイド系農薬残留分析」

一般社団法人農民連食品分析センターは、2017 年にEU で発覚した鶏卵のフィプロニル汚染事件を受け、国産鶏卵50商品(25都県)についてのネオニコチノイド系農薬の残留調査を行ないました。調査の結果、フィプロニルをはじめ、ネオニコチノイド系農薬は検出されませんでしたが、5商品からジフルベンズロン、スピノサドが検出されました。これらの薬剤は、ニワトリに直接かけることはないため、ニワトリに散布されたものが殻から中身にしみこんだというより、ポストハーベストとして使用されたトウモロコシなどの餌由来の可能性が高いとの見解が示されました。

◆スピーゲルバーグ・マキシミリアン
「ネオニコチノイドと暮らす: 京都におけるネオニコチノイドを含有する家庭用品の使状状況、消費者動向・意識の探求」

(大学共同利用機関法人人間文化研究機構)総合地球環境学研究所によるFEASTプロジェクト研究員のスピーゲルバーグ・マキシミリアンさんは、ネオニコチノイドを成分に含む家庭用品に関し、京都市内の店舗調査やオンラインアンケートを通じて消費者の使用状況や認識を把握する調査を行いました。調査内容は、商品のリストアップ、販売店舗の訪問調査、販売店舗のマッピング、京都市民1,000名へのオンラインアンケートなどです。調査の結果、京都市内では55種類(ゴキブリ駆除などの屋内用19種類、アリ駆除や園芸用などの屋外用36種類)が店舗で販売されており(2018年夏現在)、その販売方法、成分表示などの問題として、「売り場ではどれがネオニコ含有製品かわからない」、「製品の形状によっては薬剤が直接体に触れる危険性がある」、「複数の成分が混合されている製品がある」といった点を指摘しました。また、オンラインでネオニコチノイドの認知度を調査したところ、「ネオニコチノイド」という単語やその特徴について知っている人は10~15%と少ないものの、欧米の規制を知ると約80%が使用について再検討すべきと答え、製薬会社に対して「環境にやさしい製品を開発してほしい」、国に対しては「商品ラベルをわかりやすいものにしてほしい」などの回答が寄せられたと報告がありました。

◆千葉工業大学創造工学部亀田研究室・亀田豊
「一年を通したミツバチのネオニコチノイド暴露経路解析」

千葉工業大学創造工学部亀田研究室の亀田豊准教授は、沖縄本島の特定養蜂場が設置した市街地の巣箱と耕作地の巣箱を調査対象として、それぞれの巣箱から原則1か月ごとに1年間、蜂成虫(体内蜜、体内花粉、蜂本体)と蜂蜜を採取し、ネオニチノイド濃度を測定するとともに、ミツバチの水飲み場の濃度も1か月ごとに測定した上で、ミツバチの暴露経路を把握する調査を行ないました。調査の結果、市街地ではミツバチ本体で8月に大幅に暴露量(クロチアニジン、チアメトキサム)が増え、また同時期、花粉とハチミツにも同じ傾向が見られる一方、飲み水も濃度が高くなっていることがわかりました。ミツバチの水飲み場である湧水地を詳細に調査すると、ある1か所では濃度が低いものの、他の場所では非常に汚染度が高いことが判明し、周辺住民や行政などへのヒアリングの結果、近隣の歴史的木造建築物へのシロアリ駆除剤散布が原因と推察されました。耕作地での調査では、蜜の汚染濃度が非常に高い結果となり、これは農作物に直接散布されて高濃度に汚染された花の蜜をミツバチが運んでいるからではないかとの見解でした。

◆特定非営利活動法人福島県有機農業ネットワーク
「有機農産物摂取による尿中のネオニコチノイド量低減に関する調査研究」

福島県有機農業ネットワークは、日頃、農薬を散布して育てた慣行栽培の農産物を食べている子育て世代の20家族61人に5日間、有機食材(米、野菜、味噌、米麹、米粉のお菓子、豚肉)を摂取してもらい、その前後における尿中のネオニコチノイド系農薬含有量を比較する調査を行ないました。1,000を超えるサンプルの3分の1を分析した結果、慣行栽培の農産物を食べていた場合5.0ppb(主にジノテフラン、アセタミプリド代謝産物)だったのに対し、有機食材の食事を5日間摂取した場合、2.3ppbと54%減少。その後さらに1か月有機食材を摂取し続けた場合は、94%まで減少することがわかり、短期間でも有機農産物を摂取することで、体内に農薬を取り込むことが防げる結果となりました。

◆東北大学大学院薬学研究科薬理学分野山國研究室・山國徹
「哺乳類末梢・中枢神経系におけるイミダクロプリドの神経毒性発現メカニズムの薬理学的解明」

※発表の詳細については、下記動画をご確認ください(42分30秒から)。

企画概要: 2016 年度のabt の助成により、哺乳類の副腎髄質細胞における低濃度のイミダクロプリド(IMI)のアドレナリン産生亢進作用を細胞培養系で発見した。また、海馬と中脳神経培養系各々で、低濃度 IMI による記憶やドパミン産生と関連する転写活性への影響を認めた。本研究では、IMI の神経毒性の更なる科学的証拠を得るため、生体(マウス)で副腎アドレナリン量や遺伝子発現への IMI の影響を精査し、また、培養脳神経細胞を低濃度の IMI に晒し、転写活性、神経機能への影響とその機序の解明を目指す。

◆ネオニコチノイド研究会
「ネオニコチノイド系殺虫剤の母子間移行メカニズムの解明」

※本発表は論文発表前のため詳細を公開できませんので、ご了承ください。

企画概要: ネオニコチノイドの母子間移行メカニズムの解明を目的に、霊長類モデルとしての妊娠ニホンザル保存試料を用いたネオニコチノイドの母体-胎児間移行メカニズムの解明を実施する。当該研究によりネオニコチノイドの胎盤を介した母子間移行メカニズムを世界に先駆け明らかにすることが可能となる。得られた結果は、最も大切な神経発達期である胎児期・新生児期における毒性影響の一端の解明に通じる。

 

第2部:パネルディスカッション「オーガニック給食の事例からネオニコチノイド系農薬を考える」

第2部は、NPOもあなキッズ自然楽校代表理事の関山隆一さん、国際環境NGOグリーンピース・ジャパンの関根彩子さん、生活協同組合連合会コープ自然派事業連合の鎌田妙子さんと辰巳千嘉子さんをお招きし、保育園、幼稚園、学校の給食にオーガニック食材を導入する取り組みを紹介しながら、どのようにこれを広げていくか、また子どもの食の安全をいかに守っていくかについて話し合いました。

冒頭、関山さんからは、もあなキッズ自然楽校が横浜・湘南地域で運営する保育園での取り組みを紹介いただき、給食は無農薬のお米と極力農薬を使用しない農作物を使用していること、4年前に設立した湘南エリアの小規模保育園は、地元の意欲的な新規就農者から直接オーガニック野菜を調達し、ローカルなつながりを大切にした運営をしていることが披露されました。

関根さんからは、グリーンピース・ジャパンの活動として、全国の私立幼稚園を対象とした給食に関するアンケート(調査対象8019件、有効回答1037件)をまとめたリーフレット『ハッピーランチガイド』が紹介され、2015年当時、無農薬食材を使っている幼稚園12%、将来的に使いたいと考えているところが71%と、関心の高さがうかがえる結果でした。このリーフレットはその後、有機農家が幼稚園や保育園に野菜を提供する取り組みのきっかけともなり、農家が安定した供給先を得るために保育園などと提携することの大切さを感じたそうです。

鎌田さんからはこれまでコープ自然派が、2017年にはネオニコチノイド系農薬問題を知る消費者向け学習会、2018年には生産者向け栽培学習会、オーガニック技術を学ぶサポートセンター、無農薬米、ネオニコフリー野菜の取り扱いといった活動を推進してきたことが紹介されました。

4人目に登壇された辰巳さんからは、ご自身が住む地域で公立の小中学校にオーガニック給食を導入した経験が報告されました。全市町村のアンケート調査、親子が畑で一緒に野菜を作り、納入するという小さな活動から始まったこの取り組みの結果、いまでは少しずつ地元農家からの納入が進んでいること、橿原市では年間6,500キログラムの農作物をオーガニックでまかなっていることなどを紹介しながら、保護者が動けば実現は可能であることを強調されました。

次に、第1部成果報告の感想を4人に伺うと、以下のような意見があがりました。「保育を取りまく制度の中で、食や室内環境は重要視されていない。保育の世界と研究者の世界が縦割りにならないよう、本日の発表者の方々が保育の分野に対しても強く発言し、制度を良くしてほしい」(関山)。「緊急性を感じた。いまの政府の動向を見ると、今後規制が厳しくなる希望はない。現場が動き出すしかないと思う」(関根)。 「福島県有機農業ネットワークの尿検査のようなものを、生協の中でもできないか考えていた。具体的な運動につながることをやっていきたい」(鎌田)。「保育士さんなど現場の方に説明するのに、尿検査のような客観的なデータがあるのはありがたい。農水省は安全だといっているが、山國さんの発表からも安全の基準がそもそも違うと感じた」(辰巳)。

また会場から、オーガニック給食を導入する際の料金や安定供給の問題について質問が投げかけられると、辰巳さんから次のようなアドバイスがありました。「(安定供給について)自校方式は小ロットでも可能な反面、センター方式は難しい場合もあるが、すべてオーガニックでなくても、欠品した場合は市場のものを使うという取り決めをしておけばよい。ジャガイモ、玉ネギ、ニンジン、カボチャなどから始め、市の担当者とともに半年後、1年後の栽培計画を立てると供給が安定する。値段については、就農者の収入を保証するという意味もあり、両方にとって許容範囲の価格にしている」。

質疑応答では、「昨年ソウル市で実現したような小中高校の給食をオーガニックかつ無償化にするよう行政に声を上げること、使った農薬を作物に表示させ可視化させる制度が必要」、「この問題に関心の高い子育て世代の方が学習会に使えるような、わかりやすい資料を作る必要がある」、「栄養分が高い野菜の皮や種を捨てたり、必ず火を通さなければいけないという従来の給食の考え方から一歩進んで、子どもの健康を真に考えた先進的な試みをしてほしい」、「科学的な根拠のあるデータをもとに、日常の食事の中で優先的に切り替えたほうがよい農作物を知る仕組みがあるとありがたい」など、いずれも第1部、第2部の内容を踏まえて、給食・生産・流通でいかにオーガニックを拡充させるか、そしてネオニコチノイド系農薬の有害性をいかに多くの方に知らせるかという問題意識を共有する場となりました。

 


当日の模様は、abtのYouTubeチャンネルでもご覧いただけます。
※論文発表前のため、一般社団法人農民連食品分析センター、スピーゲルバーグ・マキシミリアン氏、ネオニコチノイド研究会の部分はご覧いただけませんので、ご了承ください。

【動画】2019年4月14日 公開セミナー「ネオニコ大会議 食べものと生きものを守ろう!」~オーガニック給食の事例からネオニコチノイド系農薬を考える~